高校時代の先輩、ということはかなりのおばさまの中に「松潤大好き」な人がいる。年上の女から見て妙にセクシーなタイプ、俗に言う“後家ごろし”が彼女の好みなのだ、とわたしはずっと思っていた。しかし『陽だまりの彼女』の松本潤を見て認識をあらためた。いつしか年を重ねていた彼は、恋に戸惑う男心を柔らかく繊細にしかもコミカルに表現できる、すっきりした感性と知性の持ち主だとわかったからだ。自分の偏見が恥ずかしい。

 越谷オサムのベストセラー小説の映画化。松本潤演じる鈍感な男子、浩介の前に、中学時代に好きだった女子、真緒(上野樹里)がキラキラ輝く女性になって現れ、今も変わらぬ好意を伝える。この再会に喜ぶ浩介に、真緒は「偶然なんてないよ」と意味深な言葉を囁くが、恋に舞い上がってしまった浩介の耳にはとどまらない。流麗な映像、手の込んだ美術、こぎれいな衣装が調えられて、この恋は理想的とも思える進展を見せる。

 しかし上野樹里がこんな単純な恋物語のヒロインだなんて、樹里ファン(わたしも)にとってはいささか退屈だろうなと思ううち、彼女の不自然な動作が少しずつ露わになる。スタイルはいいが姿勢がよくない、熱い飲みものが異様に苦手、むやみに運動神経がいい、水族館で魚を見て「おいしそう」と言う、などなど。

 やがて枕に抜け毛がどっさり、という段になってからは浩介ばかりか観客も慌てることになるが、カンのいい映画ファンは気づくだろうし、そもそも小説のファンは先刻ご承知のことである。つまり彼女は人間の姿をした別の存在なのだ。持って回った言い方をしているのは、映画の公開前に製作サイドからこの秘密を伏せるように求められたからであり、公開後であればなおさら、この一事は伏せて通そう、と意地っ張りなわたしは思うからである。

 率直に言うと、この映画の素晴らしさは真緒の秘密を知ったときの驚きにあるのではない。そもそも大した驚きでもない。この映画の素晴らしさは、彼女の秘密を知った時の浩介の無反応にこそある。つまり、彼にとっては彼女が人間であろうがほかの何ものであろうが、そんなことはどうでもいいのである。純真に真緒という女子を大切にし、彼女とずっと一緒に生きて行きたいと願っている男子がそこにいるだけなのである。

 そのなにげなさを松本潤は高い純度で演じたのであり、それがこの映画の品格になっている。映画館で再見した際、行儀の悪い隣の幼いカップルが「あ~つまらなかった」と捨て台詞を残したので、わたしは傷つき「しょせん、おまえらはせこい恋愛しかできないぞ」と内心で毒づいた。
                              (内海陽子)

陽だまりの彼女
2013年 日本映画/128分/ 原作:越谷オサム『陽だまりの彼女』(新潮文庫刊)/ 監督:三木孝浩/出演:松本潤(奥田浩介)、上野樹里(渡来真緒)、玉山鉄二(新藤春樹)、大倉孝二、谷村美月、菅田将暉、北村匠海、葵わかな、ほか/配給:東宝=アスミック・エース
2013年10月12日全国東宝系にてロードショー
『陽だまりの彼女』公式サイト http://www.hidamari-movie.com/