『年少日記』映画レビュー パズルが完成するときに残る余韻

子どもが何人かいる親は、平等に子どもに対したいと思うけれど、なかなかうまくいかない。『年少日記』に登場する小学生の兄弟の場合、弟は極端にできがよく、兄は信じられないぐらいできが悪い。両方同じように接しようとするのは、親にとって大きな試練だ。心に余裕があればゆっくりと応対できるかもしれないけれど、多分そんな余裕もないのだろう。

『年少日記』は、今の香港を舞台にしている。それでも誰にでも直接に響く題材を繊細なタッチで丁寧に描いている。解答もきちんと与えてくれるところに誠実さを感じさせる作品だ。解答はクリアな柔らかさを持って、優しく深くまで届かせる力がある。

できの悪い兄は日記を書くことにする。日記を書くことで勉強ができるようになるという校長先生の言葉を素直に実行したわけだ。兄の努力は涙ぐましい。彼を支えるのは、いつも読んでいる「パイレーツ」という漫画の中の「なりたい大人になれる。がんばれ」という言葉だ。

少年は大人になって高校教師になっている。勤める学校で、自殺をほのめかす遺書が見つかった。そこに記されていた「私はどうでもいい存在だ」という言葉が彼を揺り動かし、遺書の書き手を必死で探すことになる。

年少日記は、巧みな脚本と構成に大きな驚きがある。映画というものの底力を改めて感じさせてくれた。主演は「ある殺人、落葉のころに」などに出演し、監督・撮影監督としても活躍するロー・ジャンイップ。監督は、本作が長編デビューとなるニック・チェク監督。2023年・第60回金馬奨にて観客賞と新人監督賞を受賞した。

最後にパズルが完成するときに残る余韻は、深く忘れがたい重みで圧倒する。どんな思いで人に接していけばいいのか。自分をどれだけ開いていくのか、目の前にいる人がどれほど大切な存在なのか。映画のタッチは厳しく優しい。

(オライカート昌子)

年少日記
6月6日(金)より新宿武蔵野館ほか全国公開
ALL RIGHTS RESERVED © 2023 ROUNDTABLE PICTURES LIMITED
配給:クロックワークス
監督:ニック・チェク  キャスト:ロー・ジャンイップ、ロナルド・チェン、ショーン・ウォン
2023年|香港|広東語|95分|ユニビジウム|5.1ch|原題:年少日記|英題:TIME STILL TURNS THE PAGES
字幕翻訳:小木曽三希子|配給:クロックワークス|映倫:PG12  
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公式サイト:https://klockworx.com/nensyonikki 公式X:@ klockworxasia