ボクの中で“リリー・フランキーが出演する映画にハズレなし”という法則があるのだが、今回もその法則は見事に発動している。
これは冗談でもなんでもなく出演者にリリー・フランキーの名前が書いてあれば、即劇場に足を向ける。これが、傑作を見逃さないためポイントである。
さて、脚本の澤本嘉光によると、真実50%、フィックション70%の割合で作られたのが本作『ジャッジ!』である。
一言で説明すれば、広告業界の裏側をコメディタッチで描き、最後にほんのり感動させるような構成になっている。その職業の裏側を描く、いわゆる“お仕事ムービー”なのだが、その完成度の高さから大きな話題になることは確実だ。
広告代理店に勤めている太田喜一郎(妻夫木聡)は、上司の命令で取引先・ちくわ堂社長の馬鹿息子が作ったちくわのCMでグランプリを獲得するためにサンタモニカ広告祭の審査員をやることになり、ギャンブル好きの同僚・大田ひかり(北川景子)と現地に向かうことになるのだが……。
さて、開始5分も経たないうちに大きな笑いどころがやってくる本作はとてつもなくつかみがウマイ映画だと言える。
そのつかみは具体的に言えばキツネうどんのCMで、喜一郎がキツネの着ぐるみの中に入り、腰を振りながら踊っていモノで、キツネうどんのコシの良さをダジャレで表現したCMなのだが、このCMがトンでもない駄作なのだ。
しかし、椅子にふんぞり返ってそのCMを制作した上司の大滝一郎(豊川悦司)は、サングラス越しに『これは、工夫しないという工夫で作ったCMなんだよ。裏の裏の裏は裏だからね。』という意味不明な発言と共になぜか勝利宣言発言をするのである。
そして、そのCMを取引先に見せると、相手の社長はそのキツネを猫だと思い、キツネを猫に大至急変更するように、喜一郎は大滝に無茶ぶりされてしまうのだ。
つまり、広告業界というのは、上司の無茶ぶりという“パワハラ”にいかに耐えられるのか、あるいはそれをいかに弱音や寝言を吐かずにこなせるか。それがすなわち出世に直結するという世界なのだ。
別の言い方をすれば、典型的なブラック企業が跋扈する業界だということを冒頭にコメディタッチで観客の頭に見事にインプットしてくれるのだ。
考えてみれば、普段目にしているCMがどのように作られているのか?を知らない人がほとんどなので、その“種明かし”をしながら、夢を追いかけていく青年の姿を描いた本作のプロットは目の付け所の勝利と言えるだろう。
それにしても、日本人の性格上の弱点としてなかなか声を出して笑うことは難しいのだが、試写室でここまで笑い声が上がっていた映画も珍しい。
前半部分では大げさでもなんでもなく5分に一回程度のペースで笑えるシーンがやってくる。打率で言うと“8割越え”の笑いのヒット率になっているのだ。
そのすべてのキッカケが冒頭すぐに映されるキツネのCMで、これを足がかりに一気に面白さに引きずり込まれていくのだ。
そして、そのキツネのCMが実は大きな伏線になっている構成もお見事としか言い様がない。
また、ただ笑わせるだけではなく、後半部分の喜一郎がちくわ堂の社長の息子が作った超駄作CMでサンタモニカ広告祭グランプリを獲得するために現地で悪戦苦闘する姿は仕事とは、企業とは、社会とは、何なのか?を考える意味でとても良いテキストになるだろう。
喜一郎はCMを作る夢を叶えた青年なのだが、しかし彼が夢見たクリエイターという仕事は蓋を開けてみれば実はただのサラリーマンの世界なのだ。
つまり、身勝手な上司、そして取引先のワガママな要求に応え、忌み嫌っている超駄作CMを仕事の為とは言え、それをグランプリの審査員としてゴリ押ししなければいけないのだ。
彼がちくわCMでグランプリを獲得できれば、今後すべてのちくわ堂CMを彼が勤めている会社で制作できるが、もし万が一グランプリが取れなければ、会社をクビになる、つまり失業。言い換えればクリエイターとしての自分を失ってしまうわけだ。
そして、何よりも興味深いのは広告祭では不正が当たり前のように横行している、という点である。つまり、金で1票を買うのは当たり前で、女性だったら色仕掛けも行われる世界なのだ。
しかし、彼は、いわゆる“純粋バカ”なので、ズルをしてまで、ちくわCMで票を取ろうとは思わないのだ。しかし、同行したひかりは彼にズルをして票を稼ぐようにアドバイスをするのだ。
彼はクリエイターとして“良いものは良い、悪いものは悪い”という信念を貫こうとすると、そもそもちくわCMが超駄作なので、そんなモノを人にオススメはできない。つまり、クビになりクリエイターという立場を失ってしまう。
一方で、“純粋バカ”の自分を捨てズルでも何でもして票を集めて、グランプリを獲得すれば、クリエイターという立場は維持されるが、その代わり、自分の理想を捨てることになってしまう。
以上のように、純粋なままでは仕事は成立しないが、純粋さを失えばそもそも労働意欲が失せる、という大問題を笑いと共にえぐり出しているので、エンタメムービーながら、ただ笑えるだけでは済まされない鋭い作品に仕上がっているのだ。
なお、大きな特徴として下ネタで笑いを取りに行く、という“禁じ手”を一回も使っていないため下品な笑いが苦手な人にも強くオススメできる作品なので、まさに観る人をまったく選ばない大傑作だと言える。
2014年の初映画は本作で決まりである。
(小野義道)
ジャッジ!
2014年 日本映画/コメディ/105分/監督:永井聡/出演・キャスト:妻夫木聡、北川景子、リリーフランキー、鈴木京香、豊川悦司ほか/配給:松竹
2014年1月11日(土)全国ロードショー
『ジャッジ!』公式サイト www.judge-movie.com