ファースターは新しいアクションスターを生んだのか?
シンプルで直線的なアクション。それが『ファースター 怒りの銃弾』の一番の特徴だ。無駄なものを省いたストーリーラインが、ダイレクトに伝わってくる。主要登場人物には名前がない。ただドライバー、キラー(殺し屋)、コップ(警察官)と呼ばれるのみ。そんなところからもシンプルさがうかがえる。
記号的なのは、名前だけではない。背景の広大な大地は、いつかどこかで見たような、懐かしさすら感じさせる町だが、そこにも名前がない。砂埃の舞う荒ぶれた風景が、どこまでも続いているようだ。
幕開けとなる刑務所の風景は、独特な熱を帯び、何か異常な事態が行く手に待っていることを暗示させる。そこを寡黙な主人公が歩いていく。彼が何の罪を犯し、どんな背景があるのか、それは物語の中盤になるまで明かされない。
復讐のためらしいが、とにかく主人公の行動もシンプルだ。ただ行って殺すだけ。コップもキラーも、背景は一切明かされることなく(次第に明らかになるが)、迷いもなく直線的にドライバーの前に立ちふさがる。
そんなシンプルなお膳立てにもかかわらず、この三者の抱えている内情は、情念的で重い。なぜ復讐するのか。なぜ殺しに行くのか。なぜ捜査するのか。その三者三様のやるせなさが、記号的な表面と熱い内面の落差の大きさとともに心に響く。
主人公のドライバーを演じるドウェイン・ジョンソンは、1972年生まれの元プロレスラー、ザ・ロックとしても名高い。今までは、ファミリー向けのやコメディなどでひょうきんな役柄を演じることが多かった。
今回の寡黙で強いドライバーのような正統派アクション俳優の役は初めてだが、カリスマ性すら感じさせる力強い存在感を示した。今作で、新しいアクションスターの誕生となったのではないかと思う。
おりしも、彼が新たに参加した『ワイルド・スピード MEGA MAX』(2011年10月公開予定)は、5作目にして『ワイルド・スピード』シリーズでも抜群の興行成績を伸ばしている。さらに現時点での2011年の年間全米興行成績でも『パイレーツ・オブ・カリビアン 命の泉』にも3千万ドル以上の差をつけ、ぶっちぎりの1位として大ヒット作となった。
はたしてドウェイン・ジョンソンが、今後ハリウッドを支えるアクションスターとして成長できるのか、楽しみにして見守りたい。(オライカート昌子)
2010年 アメリカ映画/98分/監督:ジョージ・ティルマン・Jr/出演:ドウェイン・ジョンソン、ビリー・ボブ・ソーントン、オリヴァー・ジャクソン=コーエン、カーラ・グギーノほか、
『ファースター 怒りの銃弾』オフィシャルサイト
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