『新章パリ・オペラ座 特別なシーズンの始まり』映画レビュー

美しいものを見ると、心が華やぐ。バレエは、美しいものの一つだ。

2020年、新型コロナウイルスの感染拡大の影響は、パリ・オペラ座にも及んだ。閉鎖されたため、バレエダンサーたちも、3カ月間の自宅待機となった。彼らが、再び舞台を目指すドキュメンタリーが、『新章パリ・オペラ座 特別なシーズンの始まり』だ。

前半は、2020年6月15日にクラスレッスンが再開し、不安の中、ダンサーたちは、以前の調子を取り戻そうと苦闘する。そして、年末に再開予定の公演の準備とレッスン、配役、リハーサルの模様が描かれる。

徐々に舞台が作り上げられていく興奮と喜び、そして、不安。その何が起こるかわからない不確定感は、ドキュメンタリーの面白さだ。

まるで自分がその場にいるような気分にさせてくれる。特に、全員リハーサルのシーンの高揚感、舞台リハーサルの緊張感。エトワールたちの華麗なバレエも素晴らしいが、コールドバレエの神々しさにも感銘を受ける。

演目は、ルドルフ・ヌレエフ振付の大作「ラ・バヤデール(インドの舞姫)」だ。パリ・オペラ座では、『白鳥の湖』と並ぶ特別な作品と位置付けられていて、五年前に上演したきり。大切な大作ということの心意気が伝わってくる。

ダンサーは、唯一自分の身体だけが資本だ。肉体の限界を超えるために研鑽する、アスリートと言ってもいいだろう。

人気良作ダンス映画の『ステップ・アップ』のコメンタリーの中で監督のアン・フレッチャーが語っていた言葉が残っている。「ダンサーほど報われない職業はない。要求されることは多く、日々困難に直面するのに、もらえるお金は少しだけ」といったものだった。

ダンサーたちが頑張るのは、観客の歓声のため。舞台と観客が作る特別な瞬間を待ち望むため。果たしてパリ・オペラ座のダンサーたちはそれを取り戻したのだろうか。

(オライカート昌子)

新章パリ・オペラ座 特別なシーズンの始まり
© Ex Nihilo – Opéra national de Paris – Fondation Rudolf Noureev – 2021
配給:ギャガ
公開日:8月19日(金) Bunkamuraル・シネマ他全国順次公開
出演:パリ・オペラ座バレエ
アマンディーヌ・アルビッソン、レオノール・ボラック、ヴァランティーヌ・コラサント、ドロテ・ジルベール、リュドミラ・パリエロ、パク・セウン、マチュー・ガニオ、マチアス・エイマン、ジェルマン・ルーヴェ、ユーゴ・マルシャン、ポール・マルク
アレクサンダー・ネーフ(パリ・オペラ座総裁)、オレリー・デュポン(バレエ団芸術監督)
監督:プリシラ・ピザート

2021年/フランス/カラー/ビスタ/ステレオ/73分/原題:Une saison (très) particulière/字幕翻訳:古田由紀子
© Ex Nihilo – Opéra national de Paris – Fondation Rudolf Noureev – 2021
提供:dbi.inc. EX NIHILO 配給:ギャガ
公式HP:gaga.ne.jp/parisopera_unusual  Twitter:Twitter@new_parisopera