(C)2013「凶悪」製作委員会
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『電車男』(2005)や『鴨川ホルモー』(2009)のひょうきんでキュートな山田孝之を愛してやまないわたしとしては、『闇金ウシジマくん』(2012)や『その夜の侍』(2012)の彼の、あくどい冷酷な演技にはやや置き去りにされた気分になる。だが山田孝之のような“できる男”がいつまでも同じポジションにとどまっていられるはずがない。本作で彼が演じるのは、死刑囚が告発した殺人事件の首謀者の犯行を暴くべく奔走する雑誌ジャーナリストだ。しかも単純な正義漢ではない。

 雑誌「明潮24」編集部の藤井(山田孝之)は、獄中にある死刑囚・須藤(ピエール瀧)の告発を受け、闇に埋もれた殺人事件の取材を始める。告発によると、不動産ブローカーで“先生”と呼ばれる男(リリー・フランキー)は、ある程度年を重ねて事業に失敗したものの土地や家屋を持つ人たちに狙いを定め、その命を奪って金に換える“死の錬金術師”だ。取材を重ねるうちに告発の信憑性が高まり、藤井は雑誌掲載に向けて全力を傾ける。

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 誰もが驚愕するのは“先生”が主導する殺害シーンのすさまじさだろう。ターゲットにした初老の男の家族に了解させ、彼に大量の酒を飲ませて殺害するまでの一連のシーンには息をのむ。とびぬけて凶悪な“先生”をリリー・フランキーが得意のパフォーマンスのように嬉々として演じるのが目を引くが、見るべきはピエール瀧が演じる死刑囚の小心さと激情、復讐心の露呈ぶりだ。わたしは、獄中からの彼の思いが届きますようにと祈るような気持ちになる。

 当然、雑誌ジャーナリズムの使命感溢れる原作・「凶悪 ある死刑囚の告発」(新潮45編集部編)とはだいぶ趣が異なる。真相追求に夢中になり、認知症の実母の介護を妻(池脇千鶴)にまかせっきりの藤井に、ジャーナリストの切ない野望がにじむ。男が命懸けで挑む仕事の陰に「わたし、お母さんを何度も殴っているの、もう罪悪感もなくなった…」と告白する妻がいる。重荷を背負い、なおも取材を続行する藤井を山田孝之は持てるエネルギーを迸らせて演じる。

「あなた、面白がっているでしょう、わたしも本当に面白いと思っている」……ほぼ思いを遂げた藤井に妻が突きつける言葉が、わたしの胸に苦みと壮快感を伴って突き刺さる。注目の新鋭、白石和彌監督の力作である。
                             (内海陽子)

凶悪
9月21日(土)新宿ピカデリーほか全国ロードショー
公式サイト www.kyouaku.com