雑誌「明潮24」編集部の藤井(山田孝之)は、獄中にある死刑囚・須藤(ピエール瀧)の告発を受け、闇に埋もれた殺人事件の取材を始める。告発によると、不動産ブローカーで“先生”と呼ばれる男(リリー・フランキー)は、ある程度年を重ねて事業に失敗したものの土地や家屋を持つ人たちに狙いを定め、その命を奪って金に換える“死の錬金術師”だ。取材を重ねるうちに告発の信憑性が高まり、藤井は雑誌掲載に向けて全力を傾ける。
当然、雑誌ジャーナリズムの使命感溢れる原作・「凶悪 ある死刑囚の告発」(新潮45編集部編)とはだいぶ趣が異なる。真相追求に夢中になり、認知症の実母の介護を妻(池脇千鶴)にまかせっきりの藤井に、ジャーナリストの切ない野望がにじむ。男が命懸けで挑む仕事の陰に「わたし、お母さんを何度も殴っているの、もう罪悪感もなくなった…」と告白する妻がいる。重荷を背負い、なおも取材を続行する藤井を山田孝之は持てるエネルギーを迸らせて演じる。
「あなた、面白がっているでしょう、わたしも本当に面白いと思っている」……ほぼ思いを遂げた藤井に妻が突きつける言葉が、わたしの胸に苦みと壮快感を伴って突き刺さる。注目の新鋭、白石和彌監督の力作である。
(内海陽子)
凶悪
9月21日(土)新宿ピカデリーほか全国ロードショー
公式サイト www.kyouaku.com