『スティルウォーター』映画レビュー

『スティルウォーター』を見た後で、こんな映画に出会いたかった、という満足感があった。主演はマット・デイモン。人気作も出演作も多い俳優だけど、それほど印象深い俳優ではなかった。ところか、この『スティルウォーター』の彼は、強い引力で引っ張ってくれる。まさに彼が愛され、素晴らしい映画に出演し続けてきた理由がわかった気がした。

『スティルウォーター』でマット・デイモンが演じているのは、庶民の男、ビル。冒頭ではトルネードで破壊された街の片付けをしている。石油掘削作業員だったが現在失業中。金になるならどんな仕事も引き受けなくてはならない。というのも、彼は、定期的にフランス・マルセイユへ行く必要があった。26歳になる娘のアリソンが、留学中にガールフレンドを殺害した罪で9年の刑に服していたからだ。

アリソンは無実を訴えていたが、父を当てにしていない。手紙を弁護士に届けて欲しいと頼んだだけ。だが弁護士はそっけない。フランス語の読み書きは一切できないビルは、ホテルで隣室になったアキムの助けを得る。見知らぬ世界で彼は娘の事件を追うことにする。

『スティルウォーター』では、フランス、マルセイユの素顔がゆっくりと姿を現す。今までほとんど、描かれことのなかった世界だ。魅力的で自然に恵まれた観光客の愛する表の顔の裏で、人を拒む街。

マルセイユと、アキム、アキムの娘マヤとの交流を通じて、ビルも変わっていく。新たなものとの出会いで、今まで知らなかった自分と出会ったようでもある。同時に、ないがしろにしていた自分の過去とも直面し、一見やり直しの機会を得たかのようにも見える。

『スティルウォーター』のラストは苦みと温かみが混ざり合った不思議な余韻が残る。鍵は題名の『スティルウォーター』。『スポットライト 世紀のスクープ』でアカデミー賞監督賞、脚本賞を獲得したトム・マッカシー監督の描きたかった世界が、胸に迫ってくる。

(オライカート昌子)

スティルウォーター
(C)2021 Focus Features, LLC.
公開中!!
2021年製作/139分/G/アメリカ
原題:Stillwater
配給:パルコ