男の子育てを描く映画は、ハリウッドではひとつのジャンルとして確立されているが、子育てする男を”イクメン”と呼ぶ今、ようやく男の子育て自体ををテーマにした邦画が生まれた。子育てする男は独身。子供も自分の子供ではなく、親戚の子だ。人気コミック画原作とはいえ、とても今風な映画だと思う。
主人公のダイキチは、自ら望んでそういう立場に身をおくわけだし、いやいや押し付けられたわけでもない。しかし、現実はそう甘くはない。最近は子育てを聖職のように囃し立てるが、仕事を持つ者は男であれ女であれ、子育てのためにたくさんのことを犠牲にしなくてはならないのは相変わらずだ。
映画は、子育ての楽しさよりそっちのほうを強調するようにして進んでいく。かといえ、子育ての楽しさは千差万別だろうけれど、現実の大変さは誰もが日ごろ感じることだから、アプローチの仕方としては正しいのだろう。
映画の中では子供と暮らしているという感じがあまりしない。りんを演じる芦田愛菜があまりにも達者に、心に傷を負った幼稚園児を演じているせいかもしれない。子供と呼ぶには個人としてしっかり確立されたような存在感を持っているように描かれている。年端も行かない子供との暮らしというよりは個性的な他者との同居という感じなのだ。それが不思議な空間を形作っている。
ダイキチは次第に”父性”に目覚めていくが、それもありきたりの父性とは違う。自分の子供ではない分、もっと相手をしっかり見て、もっと大切にしなくてはという気負いも見える。この映画は、子供との関係というよりは、もっと幅広く、他者とのかかわり全般について描かれた映画なのだろうと思う。(オライカート昌子)
うさぎドロップ
公式サイト http://www.usagi-drop.com/