ナチス占領下のパリでフランス政府によってユダヤ人が一斉に検挙された”ヴェル・デイヴ事件”を描く歴史大作。子供たちを守ろうとする赤十字の看護師アネットを『イングロリアス・バスターズ』『オーケストラ!』などで成長著しいメラニー・ロランが熱演。『レオン』のジャン・レノが収容所の医師に扮する。
黄色い星とは、当時ナチスドイツの命令で、ユダヤ人であれば必ず胸に着けねばならなかった星型の紋章のこと。物語の中心になるのは、11歳の少年ジョーの家族。近隣の家族と仲睦まじく暮らしているが、ナチス政権のユダヤ人検挙に加担したフランス政府により、ある朝突然、日常が一変する。ヴェル・ディブ(冬季競輪場)へと移送されたユダヤ人たちは、ここで数日間過ごした後、収容所へ移動。中には、策を練って難を逃れる者も居り、生き延びる術を見つけようとする彼らから目が離せなくなる。
収容所に到着してからの生活には、かなり生々しいシーンもある。劣悪な衛生状態や貧しい食事・・・看護師のアネットは、政府の理不尽な振る舞いに体を張って抵抗し、子供たちを守りぬく。最も悲痛なのは、列車(ガス室行きの)の遅れで子供たちだけが翌日になると言われ、それまで一緒だった母親と子供たちが引き離されるシーン。泣き叫ぶ母親と子供たちを、政府の軍人が無情に引き裂く。この後、ジョーが収容所から脱走。実はこの映画は、このとき生き残った実在する彼の証言をもとに作られた物語なのである。
自由を手に入れられる場所は、死の向こう側にしかない。犠牲者の心情を思うとやりきれないが、同時に、加害者である政府側の人間のこともふと考えさせられる。特に、日本で震災が起きて数ヶ月経つ今では、国民の危機感が徐々に薄れつつある。政府に反旗を翻す者は殆どいない。多くが「右へ習え」となり、出る杭は打たれてしまう。日本だけではい、もしまたヒットラーのような人間が現れたら、大抵の人間は従ってしまうのではないだろうか。それは、一人一人の「意思」でなく人間の悲しい「本能」や「習性」なのである。
アネットが休憩中、隣で兵士が「もううんざりだ」とこぼす場面がある。そのとき「じゃあ抵抗しなさい。あなた方の誰もがそうしない」とアネットが言うと、兵士は「そんなことをしたら殺される。僕にだって家族があるんだ」と反論する。誰もが生きなければならない。そのどうしようもない現実に、善悪を超えて人間の試練を見た気がする。 (池辺麻子)
・2010年 フランス/ドイツ/ハンガリー映画/125分/監督:ローズ・ボッシュ/出演:ジャン・レノ、メラニー・ロラン、ガド・エルマレ、ラファエル・アゴゲほか、
『黄色い星の子供たち 』オフィシャルサイト
・7月23日(土)より、TOHOシネマズ シャンテ、新宿武蔵野館他にて全国順次ロードショー!