『アイミタガイ』映画レビュー 不思議な幸せ

『アイミタガイ』は、不思議な映画だ。なぜかというと、幸せな出来事から始まるわけではないのに、見た後には、きっといい気分になれるだろうから。悲しい始まりなのに。優しさや、感動や、楽しい気持ちが残る。

舞台は、名古屋近郊。ウェディングプランナーの梓(黒木華)には恋人の澄人(中村蒼)がいる、二人の仲は順調。けれども梓は、結婚をするつもりはないと宣言している。梓には、他にも大切な人がいる。学校時代からの親友、叶海(中村蒼)だ。叶海は、カメラマンで海外出張をひかえていた。ある日、悲劇が起きる。

一方、梓の伯母、範子(安藤玉恵)はホームヘルパーをしていて、こみち(草笛光子)の家へ通うことになった。こみちは93歳。頑固なこみちと範子は、何とか心を通わせることができるようになっていく。

梓の過去、梓と澄人、梓と祖母、こみちの過去、そして叶海の家族の姿が、力みのない自然なテンポで描かれているのところが、優しさを感じる理由だ。

この映画で一番気になるところは、聞きなれない言葉、「アイミタガイ」だろう。タイトルになっているのだから、それなりの意味があるはずだ。映画の中でちゃんと意味は説明されるが、それは、かなり経ってからのこと。

そのころには、映画にすっかりとりこまれ、「アイミタガイ」って、どういう意味? という疑問は、すっかり忘れている。そして堂々と「アイミタガイ」が登場してくる。

そして、この映画が、「アイミタガイ」についての映画だったということが、納得できるのは、ラストまで待つことになる。構成の妙だ。

原作は、中條 ていの連作短編「アイミタガイ」。関連性を持つストーリーが一本の映画になっている。それを映画化したのは、『彼女が好きなものは』(21)やドラマ「こっち向いてよ向井くん」(NTV)の草野翔吾監督。もともとは、故・佐々部清監督が、魂を注いでいた企画だ。脚本の骨組みを作ったのは、『台風家族』(19)の市井昌秀。

映画『アイミタガイ』、そして「アイミタガイ」という言葉は、新しい観点を持たらしてくれる。もともとは知っているはずのことだ。その観点に注目することは、世界を見る目を新鮮に整えてくれるような気がする。

(オライカート昌子)

アイミタガイ
2024年11月1日より全国ロードショー
(C)2024「アイミタガイ」製作委員会
監督:草野翔吾
原作:中條てい
脚本:市井昌秀 佐々部清 草野翔吾
キャスト:黒木華、中村蒼。藤間爽子、安藤玉恵、草笛光子、西田尚美、田口トモロヲ、風吹ジュン
2024年製作/105分/G/日本
配給:ショウゲート