『ポッド・ジェネレーション』映画レビュー

葛藤なき居心地良さの追求
『ポッド・ジェネレーション』の監督は、女性のソフィー・バーセス。人工子宮の卵型ポッドで子どもを育てる話は、男性が考えたのではないかと思っていたが、違っていた。

男性にも子育てを分担して欲しい願望が女性にはある。卵型ポッドを前抱っこする男性、背負って仕事に行く姿は、映画の中では無理ない姿で描かれている。

女性が社会に参加し活躍するのに、妊娠の負担は、大きいし、人工子宮なら、健康面での不安もない。『ポッド・ジェネレーション』には、女性、男性に関わらず、願望を叶える手段が描かれている。

近未来の大都市。今とそれほど変わらない。AIを駆使したことで、少し便利になったくらいだ。街も家も清潔で快適そう。大都市の住人は、田舎へ行かない。自然ポットがあるからだ。より便利追求をしたら、本物の自然すら必要なくなった。

セラピーもAIサブスク。生活のすべてが、AIのお膳立てで管理されている。けれど窮屈には描かれていない。お洒落でゆったりしている。理想的な暮らしだ。

妻レイチェルには、『ゲーム・オブ・スローンズ』のエミリア・クラーク。仕事で成功を収めつつある彼女に、会社から提案があった、卵型ポッドに加入するための資金援助と、予約ができるという特典。卵型ポッドを扱うペガサス社にキャンセル待ちを申し込んでいたレイチェルには、魅力的な提案だった。

子どもを持つなら自然に、と考えていた夫も、彼女が望むならということで納得。晴れて、みんなが夢見る卵型ポッドで子どもを持つことに。問題があるとしたら、利益にこだわるペガサス社の企業姿勢だ。ここに人工であることを否定する視点は、描かれていない。

『ポッド・ジェネレーション』は、進歩と伝統、自然と科学の境目を自在に飛び越えていく。快適と気持ちよさ、ありのままの自分を追求していく。葛藤なく。ラスト10分間の居心地の良さは、別格だ。

気になったのは、レイチェルのAIセラピストの姿が、怖ろしいこと。そして、大事なことを描き忘れているのではないかな、と思ったこと。レイチェルが自転車に乗って用事を済ますなら、哺乳瓶は必要でしょ。その理由で、監督は男性ではないかと思い込んでしまった。

(オライカート昌子)

ポッド・ジェネレーション
12月1日全国ロードショー
配給:パルコ
(C)2023 YZE – SCOPE PICTURES – POD GENERATION
2023年製作/111分/G/ベルギー・フランス・イギリス合作
原題:The Pod Generation
監督:ソフィー・バーセス
出演:エミリア・クラーク、