『ハニーボーイ』映画レビュー

痛みを癒してくれる映画がある。

映画の場合は、たいがい、痛みは癒しと、セットになっていて、心が傷んだままで、放っておかれることはまずないのだけけれど。

『ハニーボーイ』の場合、伝わってくる精神的な痛みは、かなり強烈だ。けれど癒しの浮遊力は、さらに大きい。ラストで、全体像が見えてくると、癒しのシャワーに洗われるような気分になる。

ある意味、この映画は、特別な力を持っている。

映画俳優として過ごすオーティスは、アルコール依存の問題を抱えていた。車の事故を起こし、更生施設へ送られる。そこで、心的外傷後ストレス障害、PTSDの兆候があると診断されてしまう。

まさかと思う、オーティスだったが、更生のために、ノートに思い出をつづることを提案され、気が進まないまま、従うことに。

オーティスは子役スターだった。だけど家に帰れば、いわゆる普通の生活とは程遠い父との、わびしいモーテル暮らしだ。

父との生活は、胸が苦しくなる場面が多い。

どうしようもないほどひどい父親ではない。

けれど、まだ子どもである息子に養ってもらっているという負い目が大きい。

はっきりとは描かれていないものの、父自身、幸せな子ども時代をおくってきたわけではないこともわかる。

過去の場面を思い出すことや、更生施設での、のんびりとした生活で、オーティスは過去を乗り越え、新たな視点を獲得していく。

描写は透明度が高い。現在子役スターとして活躍中のノア・ジュブの実力にも舌を巻かざる得ない。

予備知識なしで見たため、最後まで父親役を演じているのが、誰なのかわからなかった。妙に親近感があるので、知っている俳優なのは確かだったのに。

その力の入った演技力はたいしたもので、酷い父親だと思っても、決して嫌いにはなれないチャーミングさがある。

エンドクレジットで、俳優の正体を知って、驚かされたうえ、感動も増した。涙することしかできなかった。

『ハニーボーイ』は、決して作り物ではない。現在まだ進行中のストーリーだ。

みんな必死で生きている。誰が何と言おうと、自分にできるギリギリのレベルで生きている。そんな連帯感と不思議な勇気が沸き上がってくる。

(オライカート昌子)

ハニーボーイ
8月7日(金) ヒューマントラストシネマ有楽町、新宿武蔵野館 ほか全国順次公開

監督: アルマ・ハレル  脚本: シャイア・ラブーフ

出演:ノア・ジュプ『フォードVSフェラーリ』 / ルーカス・ヘッジズ 『マンチェスター・バイ・ザ・シー』
     シャイア・ラブーフ 『トランスフォーマー』シリーズ 

原題:HONEY BOY/ 2019年/アメリカ/95分/シネスコ/5.1chデジタル/

配給:ギャガ   

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