本年度のカンヌ映画祭にて追放騒ぎを起こしたラース・フォン・トリアーが同映画祭に出品した作品。地球滅亡へのカウントダウンと自身のうつ病を投影した、一種のSF作品である。主演のキルスティン・ダンストは本作でカンヌ映画祭最優秀主演女優賞を受賞した。
ワーグナーの「トリスタンとイゾルデ」が全編を覆い、とにかく圧倒的な映像美である。特に冒頭シーンの美しさには心を奪われ、台詞のないスローモーションについ見入ってしまう。地球消滅という壮大な瞬間を控えながらも、屋敷とその庭であるゴルフ場という「限定された空間」を舞台にしているため、外界のパニック的な様子は全く描かれずに独特の世界観が醸し出されている。
キルスティン・ダンスト演じる妹とシャルロット・ゲンズブール演じる姉の物語が二部構成になっており、妹の方はやや情緒不安定なキャラクター。が、必死になってストーリーを追う必要はなく、ワーグナーの音楽に身をまかせながら物語の行方をただぼんやりと観ているだけでもいいのだ(あくまで個人的見解)。不快なまでに衝撃的な演出を繰り返してきたラース監督の到達点というべきか、彼らしさはちっとも失われていないのに、これまでの作品のような刺々しさは消え、癒しの境地に達していると感じた。 (池辺麻子)
メランコリア
2011年 デンマーク/スウェーデン/フランス/ドイツ映画/118分/監督:ラース・フォン・トリアー/出演:キルステン・ダンスト、シャルロット・ゲンズブール、キーファー・サザーランド、シャーロット・ランプリング、ウド・キア、ステラン・スカルスガルド、アレキサンダー・スカルスガルド/配給:ブロードメディアスタジオ
2012年2月、TOHOシネマズ 渋谷他全国公開