『アンモナイトの目覚め』映画レビュー

人生には、突然訪れる思いがけない出会いや贈り物がある。毎日をワクワクするものに変え、新たな可能性が開かれていく。『アンモナイトの目覚め』のヒロイン、古生物学者としてて生きてきたメアリー・アニング(ケイト・ウィンスレット)に訪れた贈り物は、シャーロット(シアーシャ・ローナン)との出会いだった。

1840年代は、日本では江戸時代末期。ヨーロッパでは、ナポレオン一世が世を去って20年近く経った時代にメアリーは、労働者階級の娘として生まれ、わずか11歳で大英博物館に展示されている魚竜イクチオサウルスの化石を発掘。古生物学者として名を成した。それも遠い昔だ。今は母親と二人暮らしで、アンモナイトをドーセットの浜辺で探し、それを観光客相手に売り細々と暮らしていた。

化石収集家の紳士、マーチソンがやってきて、メアリーに採集に同行させて欲しいと頼み込む。お金のために同意したメアリーに、マーチソンは、うつに悩む妻のシャーロットをしばらく預かって欲しいというさらなる願いを口にする。

初めは不調和だったメアリーとシャーロットの関係が、親密になっていく過程が秀逸だ。それは、暗い天候で荒々しい海辺にだんだん光が差していく画面の変化でも表現される。かたくなで不愛想だったメアリーにも活気が戻ってくるプロセスだ。

二人の心が通い合うようになるきっかけは、シャーロットが熱で倒れてしまったこと。医者に看病するように言われ、「なぜわたしが?」と言うメアリーに、「シスター同士として、面倒を見ることは当然のことです」と医者は説得する。その言葉を受け入れたメアリーは、可能な限りの看護をし、やがて雲の間から太陽の光が届くように、心の隙間から愛情が溢れだす。今までは、関心のほとんどがアンモナイトだった、メアリーの硬い殻がほぐれていく。

メアリー役のケイト・ウィンスレットの演技は、まさしく圧巻。骨太で強く素朴なところから、輝きが戻ってくるまでの変化をドラマティックに提示してくれる。一方のシアーシャ・ローナンのシャーロットは、石のようだった表情が明るく無邪気にコケティッシュな姿になってくる。

心の奥にある愛の泉が時を満ちて溢れだす経験の喜び。無理をしなくてもそれはひとりでに花開く。『アンモナイトの目覚め』は、それを思い出させてくれる。
オライカート昌子

アンモナイトの目覚め
© 2020 The British Film Institute, British Broadcasting Corporation & Fossil Films Limited
全国順次公開中
配給:ギャガ
監督:フランシス・リー『ゴッズ・オウン・カントリー』
出演:ケイト・ウィンスレット『愛を読むひと』、シアーシャ・ローナン『ストーリー・オブ・マイライフ/わたしの若草物語』