自分を変えたいと思う。だけど、変えたい思いは、漠然としている。何をどう変えたいのかわからない。ただ、わかっているのは、このままではいけないということ。
ある日、何かが起こる。起こった何かは、強力に、自分を変える後押しをしてくれる。『もっと超越した所へ。』は、ダメダメな4組のカップルの恋愛模様を通して、自分を変えるとは、どういうことなのかを、シンプルに見せてくれる痛快作だ。そのパワーは圧倒的だ。
人気舞台の映画化作品。劇作家・根本宗子が、原作・脚本を担当している。監督は、山岸聖太。根本ワールドの最大の理解者でもある。
映画はまず、”米”でスタートする。元子役のタレント・鈴は米を研ぐ。衣装デザイナーの真知子は、米の袋をスーパーで買おうとしている。店員・美和は起き抜けのぼさぼさの状態で、パックご飯を納豆で食べる。風俗嬢の七瀬は、立ったままおにぎりを頬張る。
この4人が主人公だ。それぞれ彼氏がいる(できる)。その関係はほんのり幸せではある。だが時が経つにつれ、ほころびが目立ってくる。彼氏たちは、実は残念なやつらじゃないだろうか?
彼女たちにも同じぐらい残念な部分がある。映画の半ば過ぎに彼女たちの過去も暴かれる。彼らはそれに気づいていないけど、過去の恋愛も、今の恋愛も同じパターンの繰り返しだったのだ。
”米”は日常性のシンボルだ。日常の中にいると、同じことを繰り返していることに気づけなかったりする。だから、何かが来るのは、幸せなことと考えることもできる。自分を少し超越し、ほんの少しでも変えるために。
ミラクルが、映画の見どころの一つだけれど、些細な日常の描写、セリフで描き出される心の揺れの鮮やかさはさすがだ。舞台を基にしているだけのことはある。
ラストで描かれる”ミラクル”は大がかりで舞台で見たら相当カタルシスを感じられるだろう。映画でも十分爽快だ。むしろ、映画では、細やかさを描きやすいため、心には刺さると思う。
繰り返している日常から一歩超越すると、全く違う未来が見える。小さな喜びに敏感になり、結果、幸せ時間が増える。人生は奇跡の連続。『もっと超越した所へ。』きっとうまくいく予感に酔える映画だ。
もっと超越した所へ。
10月14日(金)より、TOHOシネマズ 日比谷ほか全国ロードショー
配給:ハピネットファントム・スタジオ
©2022『もっと超越した所へ。』製作委員会
監督:山岸聖太
出演:前田敦子 菊池風磨
伊藤万理華 オカモトレイジ
黒川芽以 ・ 三浦貴大
趣里 千葉雄大
原作:月刊「根本宗子」第10号『もっと超越した所へ。』
脚本:根本宗子
音楽:王舟
主題歌:aiko「果てしない二人」(ポニーキャニオン)
2022年/日本/カラー/ビスタ/5.1ch/119分/PG12