『ロスト・キング 500年越しの運命』映画レビュー 時空を超えて歴史ミステリーの世界へ誘う

謎を追う歴史ミステリーには、ワクワクさせられる。『ロスト・キング 500年越しの運命』は、それだけではない。不遇だったシングルマザーの大逆転人生の実話が、魅力的だ。

500年間行方不明だった英国王リチャード3世の遺骨を掘り当てたのは、フィリッパ・ラングレー。信念と粘りと、直感を受け入れる姿勢が、彼女のシークレットウェポンだ。

リチャード3世と言えば、ウィリアム・シェイクスピアによる戯曲『リチャード三世』で有名。この作品の中では、リチャード3世は、狡猾かつ醜悪で、不具の肉体を備えた怪物だ。そのイメージが一般に深く浸透している。

シェイクスピアが戯曲を執筆したのは、リチャード3世の死後、約100年経った時点。定説は正しいのか。そこに新たな発見が隠されていないのか。映画の中では、息子の付き添いでシェイクスピア劇をを鑑賞したフィリッパは、疑問を抱き、一般的なチャード3世のイメージを覆すべく勉強を始める。

リチャード3世は、ヨーク朝(プランタジネット朝)最後のイングランド王(在位:1483年 – 1485年)で、レスターシャー、ボズワースの戦いにより、32歳の若さで世を去った。

ボズワースの戦いでチューダー朝が勝ち、リチャード3世のヨーク朝から王位を奪い取った。勝った側が、敵を悪く描くのはよくあることだ。

若くして無念の死を遂げた、リチャード3世にも応援団がいる。汚名を晴らし、「名誉回復」を図ろうとする「リカーディアン (Ricardian) 」たちだ。正統な歴史家からは、相手にされないものの、情熱と団結力は抜群。フィリッパの大きな助けにもなる。

監督は『クィーン』、『ハイ・フィデリティ』、『あなたを抱きしめる日まで(13)』などのスティーブン・フリアーズ。イギリスの女王であっても、市井の人物であっても、地に足がついた日常をしっかり描き心温めてくれる手腕がある監督だ。

フィリッパ・ラングレーを演じるのは、『パディントン』シリーズなどの出演作があるサリー・ホーキンス。『シェイプ・オブ・ウォーター(17)』ではアカデミー主演女優賞の候補となった。可憐でいて情熱的。その演技から目が離せない。

時空を超えて、リチャード3世と心がつながるような不思議な感覚が残る秀作だ。

ロスト・キング 500年越しの運命
2022年製作/108分/G/イギリス
原題:The Lost King
配給:カルチュア・パブリッシャーズ