『パラレル・マザーズ』映画レビュー

ペネロペ・クルスは相変わらず美しい。特にペドロ・アルモドバル監督作品に出演しているとき、その美しさはけた違いとなる。スペイン女のたくましさを残しつつ、『パラレル・マザーズ』では、繊細で悩みもある、普通の女の部分が親近感を与えてくれる。

『パラレル・マザーズ』のペネロペは、同じ産院で同じ日に女児を出産した二人のうちの一人、女性カメラマン、ジャニス役。もう一人のまだ10代の母親アナの方は、ミレナ・スミットが演じている。ジャニスもアナももシングルマザーであり、子ども取り違いにあってしまう。

子ども取り違いというと、悲劇作品になりそうな気もするが、さすがペドロ・アルモドバル監督、そんな単純な物語は描かない。

ミステリーチックでもあり、ユーモアでお洒落。恋愛模様もあり、さらに近代スペインの歴史まで描くのだから、巨匠監督の力は違う。

ジャニスが、娘のセシリアが自分の子どもではないと気づいたのは、セシリアの父であり、考古学者のアルトゥロが、この子は自分の子ではないと言い張ったからだ。アルトゥロ以外に父親はいるはずがない。

試しにDNA検査をしてみると、結果はアルトゥロの言う通り。セシリアはジャニスの生物学的子ではないという。ジャニスはどうするか? ストーリーは帆先を変えていく。そこが映画の見どころの一つ。

『パラレル・マザーズ』に出てくる母は、ジャニスやアナだけではなく、ジャニスやアナの母親もささやかに描かれているが、印象は強い。アナの母親は、中年になって初めて女優として花開く直前にいる。つまり、常識的な母親像には当てはまらない。それはイビサ島で子どもを前抱っこしながら人生を謳歌してという、ジャニスの母親もそうだ。

ストーリーを額縁のように包んでいるのは、ジャニスの祖母、曾祖父の内戦時代に起きた出来事であり、そこまで踏み込みながら、浮かび上がるのはさらに様々な母親の姿。その多次元的描き方は、まさにパラレル。『パラレル・マザーズ』のタイトル通りだ。

ジャニスも、ありきたりの母親像に当てはまらない、自分の生き方が第一。一種の毒親であるかもしれない。包み込む大きさは映画の中の情熱の一つの形として心に残る。母の愛は強く、どんな形であれちゃんとある。それがしっかりと伝わってきて嬉しくなる。

(オライカート昌子)

パラレル・マザーズ
11/3(祝・木)ヒューマントラストシネマ有楽町、Bunkamuraル・シネマ、新宿シネマカリテ 他公開
© Remotamente Films AIE & El Deseo DASLU
脚本・監督:ペドロ・アルモドバル (ペイン・アンド・グローリー/ボルベール〈帰郷〉)
出演:ペネロペ・クルス、ミレナ・スミット、イスラエル・エレハルデ 、
   アイタナ・サンチェス=ギヨン、ロッシ・デ・パルマ、フリエタ・セラーノ
2021/スペイン・フランス/スペイン語/123分/カラー/5.1ch/ドルビーデジタル/アメリカンビスタ 
原題:MADRES PARALELAS