映画『星と月は天の穴』のテーマは、愛と性。原作は、吉行淳之介による芸術選奨文部大臣受賞作品。濃密でいて不可解な男女を描きつつ、まるで時間旅行をしたように、今とは違う世界へ誘う。舞台は1969年の東京。モノクロームの中にたまに思い出したようにカラーが混じる。
主人公の小説家矢添(綾野 剛)の小説内の出来事と、現実が入れ子構造を取りながら、やがて重なっていく。ストーリーのほとんどが異性のことと愛の営みだ。単純でいて複雑。緻密で繊細な世界は、古き良き日本の豊饒さが漂っているように感じた。今は小説家であろうと、これほどゆったりと生きてはいないだろう。心を乱すものが多いから。
矢添の頭の中を大きく占めるのは、男女のことばかり。かと言って、矢添が男女関係のスペシャリストというわけではない。結婚に失敗している。女性に対してもスマートに付き合うというよりは、振り回されている。ただその振り回され方に余裕と醒めと遊びがあるところがポイントだ。
『星と月は天の穴』で矢添の現実世界で関係していく女性は、馴染みの娼婦・千枝子(田中麗奈)と、大学生の瀬川紀子(咲耶)。紀子とは画廊で出会い、紀子の粗相が情事のきっかけとなっていくところにびっくりしてしまう。紀子のパワーは、モノを知らない、あるいは知っていると思い込んでいる若さゆえのもの。千枝子は大人の洗練と静けさを持ち、その大人の気配には、映画の質を深める力がある。
『星と月は天の穴』は、女性と男性の違い以上に、歳の差や現代と当時の時代の差異に印象が残った。映画の中では「星も月も穴ぼこ」と表現されているけれど、美しく見えるけれど、何かが欠けた状況を現わしたものかもしれない。完璧なものは何もない。
星と月は天の穴
12月19日(金)テアトル新宿ほか全国ロードショー
綾野 剛
咲耶 岬あかり 吉岡睦雄 MINAMO 原一男 / 柄本佑 / 宮下順子 田中麗奈
脚本・監督 荒井晴彦
原作 吉行淳之介「星と月は天の穴」(講談社文芸文庫)
エグゼクティブプロデューサー:小西啓介 プロデューサー:清水真由美 田辺隆史 ラインプロデューサー:金森
保 助監督:竹田正明
撮影:川上皓市 新家子美穂 照明:川井
稔 録音:深田 晃 美術:原田恭明 装飾:寺尾 淳 編集:洲﨑千恵子
衣裳デザイン:小笠原吉恵 ヘアメイク:永江三千子 インティマシーコーディネーター:西山ももこ 制作担当:刈屋真 キャスティングプロデューサー:杉野
剛
音楽:下田逸郎 主題歌:松井
文「いちどだけ」他 写真:野村佐紀子 松山仁 アソシエイトプロデューサー:諸田創
製作・配給:ハピネットファントム・スタジオ 制作プロダクション:キリシマ一九四五 制作協力:メディアミックス・ジャパン
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