映画『すべてがうまくいきますように』をより味わうためのポイントとは? 映画レビュー

『すべてがうまくいきますように』をより味わうポイントとは

『すべてがうまくいきますように』とは

フランスを代表する監督、フランソワ・オゾン監督が、「まぼろし」「ぼくを葬る」に続く、死の三部作の三作目として、メガホンをとったのが『すべてがうまくいきますように』だ。

『すべてがうまくいきますように』スタッフ・キャスト

フランソワ・オゾン監督とは

現在のフランスを代表する映画監督。ベルリン、カンヌ、ヴェネチア映画祭の常連であり数々の作品でセザール賞も受賞。多作で知られる。

すべてがうまくいきますようにのキャスト
『ラ・ブーム』で旋風を巻き起こしたソフィ・マルソーがエマニュエル役で主演、父のアンドレ役には、「私のように美しい娘」のアンドレ・デュソリエ。妹パスカル役に、「17歳」のジェラルディン・ペラス。母のクロード役に『さざなみ』のシャーロット・ランプリング。

『すべてがうまくいきますように』の注目ポイント

1 死の三部作の三作目にして、安楽死を題材にとっている。

安楽死や尊厳死は、フランスの有名監督、ジャン・リュック・ゴダールが、91歳にして自殺ほう助を選んだことで一気に注目を浴びた。

ジャン・リュック・ゴダールは、意識がはっきりしているうちに自分の行く末を選びたいという理由で安楽死を選んだという。『すべてがうまくいきますように』の場合もそれは同じ。

『すべてがうまくいきますように』では、安楽死のための手続きや、方法なども詳しく描かれている。

2 安楽死を選ぶ理由と条件

『すべてがうまくいきますように』のアンドレは、幸福そのものの生活を送ってきた。もちろん、ジャン・リュック・ゴダールもだ。その幸福な生活を最後まで続けるために選ぶという、理由がこの映画では描かれている。

フランスでは、安楽死が認められていない。だから希望者は、自殺ほう助が認められているスイスまで行くことになる。それには費用もかかるし、厳正な手続きも必要だ。「貧乏人は死を待つだけ」とアンドレは言うが、死を選ぶ特権があるのなら、選ぶこともできると暗に主張しているようだ。

3『すべてがうまくいきますように』がリアルな家族の映画になった理由とは

本作は、『まぼろし』、『スイミング・プール』、『ふたりの5つの分かれ路』、『Ricky リッキー』で、フランソワ・オゾン監督と組んだ、脚本家・作家のエマニュエル・ベルンエイムの自伝的小説の映画化。

エマニュエル・ベルンエイムは、2017年にガンで62歳で亡くなっている。フランソワ・オゾン監督は、以前にエマニュエルからオファーを受けたものの手がけていなかった本作を今回手がけた理由に、再びエマニュエルに会いたかったからとコメントしている。

エマニュエルの家族と、その家族を襲った状況。ほぼ原作通りに描いたことで、真実味があるファミリードラマ的味付けの作品となった。

『すべてがうまくいきますように』映画レビュー フランソワ・オゾン監督のこだわりの美学で安楽死を望む父に翻弄される家族の姿を柔らかいタッチで描く


フランソワ・オゾン監督は、死にとりつかれているのだろうか。前作『Summer of 85』では主人公の少年の「僕は、死体に魅せられている」ということばが強烈だった。『すべてがうまくいきますように』では、題材に安楽死を持ってきている。

ただし、『すべてがうまくいきますように』では、安楽死はあくまでも題材に過ぎないところがポイントだ。素晴らしい家、ありあまる財産、美術収集の趣味を持つ男が、脳溢血で倒れる。

命をとりとめ、次第に回復していく姿にホッとしている娘に彼は言う「終わりにしたい」。と。

なぜなのだろう。身体はまだ不自由だ。痛みも多少はあるだろう。ただし生きていけないほどではない。だから、この映画は、安楽死の是非を問う映画ではない。

どう生きるかの映画なのだ。そして気がついた。フランソワ・オゾン監督は、美にとりつかれているのだ。それは、彼の「美しい人生だった。おまえたちも美しい人生を送って欲しい」というせりふにあらわれている。

娘のエマニュアルを演じるソフィ・マルソーは、中年にさしかかっても、どの表情も、どの動きも美しい。悲嘆にくれる姿も悩める様子も目に優しい。そして、フランソワ・オゾン監督がこだわっている色使いの鮮やかさ。えんじ色、様々な違いのある青色、赤、オレンジの暖色系との絶妙な組み合わせ。

シーンの転換の神業的テンポは、無駄なく軽快。巧妙なダンスを見ているように映画は展開していく。

金銭には恵まれていても、いろいろなことのあった人生。でも彼は、美しい人生をこよなく愛してきた。最後まで満足したい。それが、「終わりにしたい」というせりふにつながる。

彼は強情で頑固で自分勝手な男だ。こだわりも強い。欠点もある。フランソワ・オゾン監督は、そういう、人間の癖のある特性を映画で取り上げてきた。フランソワ・オゾン監督の手にかかると、どんなに”変な”癖でも、詩のように美しいものに変わる。

あなたにもわたしにもある、人には言えない変なところ。そんなところに、そっと温かいまなざしを向けるのが、フランソワ・オゾン監督の映画であり、彼の美学なのだ。

(オライカート昌子)

すべてがうまくいきますように
2月3日(金)より、 ヒューマントラストシネマ有楽町、
新宿武蔵野館、Bunkamuraル・シネマ 他公開
監督・脚本:フランソワ・オゾン
出演:ソフィー・マルソー、アンドレ・デュソリエ
ジェラルディーヌ・ペラス、シャーロット・ランプリング、ハンナ・シグラ、エリック・カラヴァカ、グレゴリー・ガドゥボワ
2021│フランス・ベルギー│フランス語・ドイツ語・英語│113分│カラー│
アメリカンビスタ│5.1ch│原題:Tout s’est bien passé│
© 2020 MANDARIN PRODUCTION – FOZ – France 2 CINEMA – PLAYTIME PRODUCTION – SCOPE PICTURES
提供:木下グループ 配給:キノフィルムズ 公式HP:ewf-movie.jp

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