『秋が来るとき』映画レビュー フランソワ・オゾン監督の独特な手触りに感服

独特な手触りの映画を、絶え間なく送り込んできたフランソワ・オゾン監督は侮れない。『秋が来るとき』は最初に持ったイメージと、内容には落差があった。歳を重ねた美しい女性が、ブルゴーニュの田舎家でゆったりと季節の変化を味わう映画ではないかと思っていた。ところが、そんな穏やかさ、なまやさしさとは遠い映画だった。

表面上はイメージ通り。ブルゴーニュの自然も美しいし、ミシェルを演じるエレーヌ・ヴァンサンも、上品で優雅な姿を見せる。途中で異音が混じり始め、雪だるまのように膨れ上がっていく。傾斜度がモダンな音を奏で始め、ラストはセンスを感じさせる絶妙な着地だ。

80歳のミシェルは、パリのアパートを娘に譲り、一人で自然豊かなブルゴーニュの田舎屋敷で暮らしていた。楽しみは友人のマリー=クロード(ジョシアン・バラスコ)との交流。秋休暇でやってくることになった娘と孫のため料理に腕を振るっていた。その後起きた出来事が引き金となり、さらなる事件へとつながっていく。

フランソワ・オゾン監督の描く人物は、肝が据わっている人物が多い。『すべてがうまくいきますように(23)』は、誰が何と言われようと、安楽死を選ぶ男性が登場した。個性が強く、アクも強い。同時にフランソワ・オゾン監督が描く女性もは硬質な輪郭を持っているように思う。潔さを心の中に隠し持っているのはミシェルも同じだ。女性のことをよくわかっていらっしゃると驚嘆してしまう。

フランス映画は特に人間関係の揺らぎを描くことに定評があるというけれど、フランソワ・オゾン監督作品は現在のフランス映画を代表していると思う。個人は揺らがないけれど。人間関係は揺らぐのだ。
(オライカート昌子)

秋が来るとき
© 2024 – FOZ – FRANCE 2 CINEMA – PLAYTIME
5月30日(金)より、新宿ピカデリー、TOHOシネマズ シャンテほか全国公開
配給:ロングライド、マーチ
監督・脚本:フランソワ・オゾン 『すべてうまくいきますように』『わたしがやりました』 共同脚本:フィリップ・ピアッツォ
出演:エレーヌ・ヴァンサン『グレース・オブ・ゴッド 告発の時』、ジョジアーヌ・バラスコ『グレース・オブ・ゴッド 告発の時』、リュディヴィーヌ・サニエ『スイミング・プール』、ピエール・ロタン『12日の殺人』
2024年|フランス|フランス語|103分|ビスタ|カラー|5.1ch | 日本語字幕:丸山垂穂|原題:Quand vient l’automne
配給:ロングライド、マーチ  © 2024 – FOZ – FRANCE 2 CINEMA – PLAYTIME  https://longride.jp/lineup/akikuru