『DOGMAN ドッグマン』映画レビュー 魂が震える孤高の人間像

『DOGMAN ドッグマン』で、リュック・ベッソン監督が覚醒した。今まで『レオン』、『グラン・ブルー』など刺激的な作品を作り上げ、唯一無二の世界を披露してきたリュック・ベッソン。『DOGMAN ドッグマン』では、孤高と愛とバイオレンスの世界に観客を熱く招き入れる。

呼び止められたトラックには、女装した男性が乗っていた。彼は負傷している上、車椅子で移動している。荷台にはたくさんの犬。一体何が起きたのか。彼と犬との関係は? 謎が解き明かされるとき、人間の強さ、尊厳、癒しの力が、圧倒的な容量で襲い掛かってくる。

『DOGMAN ドッグマン』の、一番惹きつけられる点は、主人公ダグラスだ。演じるのは、『アンチヴァイラル』『ゲット・アウト』などのケイレブ・ランドリー・ジョーンズ。彼が演じるダグラスの魅力は、想像をはるかに超える。緻密で純粋、誠実で残虐。それは、ダグラスが経験してきた信じがたい生い立ちと生き様が、作り上げたものだ。

『DOGMAN ドッグマン』に暴力は欠かせないにしても、それ以上に、力を込めて描かれているものがある。それは、シェークスピアや、シャンソンなどの芸術的な華やかなバックグラウンド。映画の中でのその奥行きと魅力は、果てしない。

『DOGMAN ドッグマン』を見て、フランスの伝説的な歌姫、エディット・ピアフに興味を持たない人はいないだろう。エディット・ピアフはフランス国民に強い影響力を持っていた。世界を支える歌の力は伝説的だ。その波乱万丈の生涯は、ダグラスの生き方と重なる部分も感じられる。

リュック・ベッソン監督は、多数の魅力的な作品群を生み出してきたが、彼の個性を一つ、あげるとしたら、配役と、その実力を引き出す能力だ。『DOGMAN ドッグマン』でも、端役の演技、一つ一つの細かさが、映画世界を力強く支えている。例えば、ダグラスに立ちふさがる保険会社員、アッカーマン(クリストファー・デナム)のたたずまい、折り目正しさ、そして豹変度。ショーパブの支配人の一つ一つの目線、表情の細やかさ。ほんの短い出演時間に、彼らの送ってきた人生が透けて見える。

そんな監督が手がける主人公ダグラスが、傑出した人間性を見せないわけがない。オープニングでの犬についてのコメントで、「人間を知れば知るほど、犬への愛が深まる。美しいけれど、虚栄心がなく、強くて勇敢だけど驕らない」この言葉は、まさにダグラスについての言葉ではないだろうか。そして、私も、そうなりたいと思う。犬と人間を同列に語るなという人がいたら、さっさとお引き取りいただこう。

(オライカート昌子)

DOGMAN ドッグマン
2024年3月8日(金)新宿バルト9ほか全国ロードショー
脚本・監督:リュック・ベッソン出演:ケイレブ・ランドリー・ジョーンズ、ジョージョー・T・ギッブス、クリストファー・デナム、クレーメンス・シック2023年|フランス|カラー|シネマスコープ|5.1ch|114分|英語・スペイン語|PG12日本語字幕:横井和子|原題:DOGMAN配給:クロックワークス
https://klockworx-v.com/dogman/
© Photo: Shanna Besson – 2023 – LBP – EuropaCorp – TF1 Films Production – All Rights Reserved.
© 2023 – LBP – EuropaCorp – TF1 Films Production – All Rights Reserved.
© Photos: Shanna Besson. Création affiche:mattverny.