夢を叶えたいという願望をみんな持っているだろう。だが、夢を叶えた後のことを詳しく考えたことはあるだろうか。『グッド・ドクター』は、猛勉強の末、医師になるという夢を実現した青年が主人公だ。
医師になったのはいいけれど、夢を実現するまで思いも描かなかった過酷な現実が新人医師を襲う。忙しさや職場の人間関係などだ。彼は、「僕は医師なんだ」という小さなプライドにぶらさがりながら、何とか一日一日を乗り越えていく。今にも倒れそうになりながら。
彼のプライドを支えてくれる人は周りにはいない。病院のなかには医師はごろごろしているのだから。そして、彼は唯一彼を尊敬のまなざしで見てくれる若い女性患者に出会う。そのあたりは恋愛映画のノリだ。彼女に関わったことで、新人医師は危ない橋を渡り始め、一気にサスペンス的展開となる。
にもかかわらず、ストーリーの語り口は穏やかだし、新人医師に共感も抱かせられているから、彼が許されないことをしているのはわかっているけれど、憎めない。そんな気にさせられるのは、脚本の上手さだろうか。
しかも、主演をしているのはオーランド・ブルームだ。久しぶりに彼の演技とスター性を堪能できたような気もする。危ない新人医師がこんなにぴったりくるなんて驚いてしまった。
特に印象深いのは、美しく危険なキスシーン。このシーンは、いわゆるサービスシーンなんてものではない。後でぞっとする恐ろしいものだ。これを境に、彼は後戻りできない所まで達してしまう。
このあたりで、多少彼に共感を抱いていたとしても、それは霧散してしまうだろう。そして後味として残るのは、薄気味悪さと落ち着かない気分だ。
(オライカート昌子)
グッド・ドクター 禁断のカルテ
2011年 アメリカ映画/97分/監督:ランス・デイリー/出演:オーランド・ブルーム (マーティン・ブレイク)、ライリー・キーオ(ダイアン)、J・K・シモンズ(クラウス刑事)、タラジ・P・ヘンソン (看護師テレサ)、マイケル・ペーニャ(ジミー)ほか/配給:日活
2012年1月 銀座シネパトス他 全国順次ロードショー
オフィシャルサイト http://good-dr.com/