『鏡の国の数学者』映画レビュー

数学者の映画は楽しい。知らない世界への窓をのぞいでいるような気になる。そして、数学の美。それはバッハの美にも通じる。『鏡の国の数学者』のカメラワークも、美しい空間と光の透明度が癒やしの世界を表現している。

『鏡の国の数学者』は、秀才が通う私立高校に特別に許可された少年、ジウ(キム・ドンフィ)の苦闘から始まる。多くの生徒が塾へ通っている。学校は、何かを学ぶところではなく、塾で習ったことの復習と内申書のために通っている。

だから授業はどんどん進むし、置いてきぼりをくらってしまったら、質問できる空気でもない。だが彼は幸運だった。彼に数学を教えてくれる人に出会ったのだ。彼の頑固な先生は、”人民軍”とあだ名で呼ばれる夜間警備員の脱北者。つまり、北朝鮮から韓国に逃げてきた人物だった。数学を愛するあまり、彼の研究を国の戦争の道具へと使われるのを嫌い、学問の自由のため南を目指してきた。

問を疑え。最初の前提すら疑え。信じるのは証明のみ。シンプルに誠実に証明のための計算を続けること。結果よりも過程。数学とはそういうものだ。ジウが人民軍先生、ハクソン(チェ・ミンシク)に教わったのは、そういうことだ。

映画のセオリーとしては、敵役が必要となる。この場合は、クラスの担任の先生だ。特別許可入学の生徒を、追い出して、転校させるのを喜びとしている。ジウが。数学でいい点数を取ることは許せない。ジウは、コンピューター室に潜り込んだ込んだことで、テスト問題を盗んだと疑いをかけられ、人民軍先生の方も、違った意味で逃亡を図ることになる。

それをどう逆転させるのか。

アガサ・クリスティ時代のミステリー小説なら、名探偵が、関係者を集め、居間で謎を解き明かす。学校を舞台とした映画の場合では、壇上スピーチが、よく使われる、古くは、『セント・オブ・ウーマン/夢の香り(92)』、名作恋愛映画、『ラブ・アゲイン(2011)』。

鏡の国の数学者は、世にも美しい数学の世界と、勧善懲悪逆転劇をミックスして描いてみせた。強い印象を残すのは、やっぱり数学の方かな。

鏡の国の数学者
© 2022 SHOWBOX AND JOYRABBIT INC. ALL RIGHTS RESERVED.
4月28日(金)よりシネマート新宿ほか全国順次公開
配給: クロックワークス
監督:パク・ドンフン 出演:チェ・ミンシク、キム・ドンフィ、パク・ビョンウン、パク・ヘジュン、チョ・ユンソ
2022年/韓国/117分/シネマスコープ/DCP5.1ch/日本語字幕:朴澤 蓉子/原題:이상한 나라의 수학자/英題:IN OUR PRIME