『高速道路家族』映画レビュー 特盛の感情ビュッフェへようこそ

『高速道路家族』は、味わい特盛映画だ。『万引き家族(2018)』と『パラサイト 半地下の家族(2020年)』の風味が半々。ストーリーを包み込むのは、ユーモアとサスペンス。

オープニングで引き込まれる。自然豊かな幹線道路沿いを歩く父母と二人の子供。楽しそうだ。遊びのように見える。ピクニック中のよう。

この心温まる様子からは、彼らが問題を抱え、それが、予測不能のエンディングを引き起こすことは、想像がつかない。いろいろな感情をぶつけられる衝撃度は半端ない。楽しいだけではない。悲しい、悔しいなど、様々な余韻は、さながら感情ビュッフェだ。

監督は、新鋭イ・サンムン。大ヒット作『スキャンダル』のイ・ジェヨン監督に師事してきた。


この家族の問題は、文無しなこと。家もないこと。子供を学校へ行かせていないこと。サービスエリアを転々としている。彼らにとって、サービスエリアは、生活拠点だ。水も、椅子もある。遊び場にも事欠かない。二度と会うことのない人に、二万ウォン(二千円)を借り、その日暮らしが成り立っている。お腹を空かせていることも多いが、生活はギリギリ回っている。

子どもたちは無邪気だ。そんな生活が普通ではないことを知っているのか知らないのか。

父は、人の良さを遠目で見分け、ターゲットを見つけることができると幼い息子に自慢している。だが、ミスをしてしまった。二度目に会った女性に気づかず、再びお金を借りようとしてしまったのだ。

心に苦痛を抱えているものの、この女性は、十分優しい人物だ。だが、二度目となると、話は違う。ここで、ギリギリバランスを保っていた高速道路家族の生活は、壊れ始める。

新たなスタート。壊れれば、作り直すしかない。新生活は、一見穏やかでホッとさせてくれるが、過去は迫ってくる。大量のサスペンスを背負って。

普通の生活、幸せな生活、問題を抱えた生活、ひどい生活。実はその差は、ほんの少しではないのか。一寸先に待っているのは、思いもしなかった新たな平原だ。

高速道路のサービスエリアに行くたびに、この映画のことを思い出すんだろうなあ。特盛の感情とともに。
(オライカート昌子)

高速道路家族
Ⓒ 2022 Seollem film, kt alpha Co., Ltd. All Rights Reserved.
4月21日(金)よりシネマート新宿ほか全国順次公開
配給: AMGエンタテインメント
監督・脚本:イ・サンムン
音楽:イ・ミンフィ 『ひと夏のファンタジア』『最善の人生』
美術:ソン・ソイル 『ポエトリー グネスの詩(うた)』『バーニング 劇場版』
出演:チョン・イル、ラ・ミラン、キム・スルギ、ペク・ヒョンジン
2022年/韓国/韓国語5.1ch/128分/英題:Highway Family/字幕翻訳:具美佳
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配給:AMGエンタテインメント