日本で一番悪いやつらの画像

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©2016「日本で一番悪い奴ら」製作委員会
『凶悪』でセンセーショナルなデビューを飾った白石和彌監督の、第二作にしてまたしても力作。北海道警の刑事になった柔道青年が、点数を稼ぐため破天荒な“悪党”に転落していく姿を描く。現在、最も注目される俳優のひとり、綾野剛が二十代から四十代後半までを気合い十分に演じきる。

  倫理的には転落だが、主人公・諸星要一(綾野剛)の意識ではあくまでも上昇志向の表明。彼はほとんどスポーティーに道を究めていく。おどおどした駆出し時代、手柄を挙げ、女をものにして得意満面な時代、危ない橋を渡り、親分面が板につく時代、やがて何もかも裏目に出て地方に追われる時代……。若くて健康で野心に満ちた俳優でなければできない役を綾野剛は上機嫌でこなす。

 状況が大きく変わるのは、1995年の國松孝次警察庁長官狙撃事件以降だ。銃器対策課のエースとおだてられた諸星は、ありとあらゆる手を使ってチャカの摘発に精出す。警察の経費をつかって拳銃を買い集める様子など、実話に基づくとは思えないほど漫画チックで、事実は小説より奇なりとはまさにこのこと。ついには、覚醒剤の密輸に目をつむるかわりにチャカの密輸を摘発するという粗っぽい策に打って出る。諸星は「みんなは悪いことしたことがないんですか!」と及び腰の上司らにはっぱをかける。この映画が放つ痛烈な皮肉だ。

 まるで世間にはチャカと覚醒剤の問題しかないかのように映るのは、映画が諸星の視点に思いきり入り込んでいるからだろう。彼のスパイ(Sと呼ばれる)になった3人の男たちとの人なつこい日常の空気、時々挿入される覚醒剤中毒の老女の恍惚の表情、追い詰められ、やむにやまれず覚醒剤に手を出す諸星の焦燥感。たたみかけるように繰り出されるそれらの映像が、権力の末端でじたばたして自滅する警察官の哀れと愚かさをそっと浮かび上がらせる。

 綾野剛をがっちり補佐して光るのが、ピエール瀧と中村獅童だ。ピエール瀧演じる先輩刑事が、バーで諸星とホステスを相手に自説を吐き散らすシーンには、たたき上げた人間の色香が漂う。犯罪をなくすために「俺だったら産婦人科医になって、子どもが生まれてこないようにするね」とのたまうのにはぎょっとする一方、なるほどと思い、苦い味が残る。中村獅童演じる元極道は、密輸を見逃された覚醒剤を載せた車で去る際、諸星に「記念に」と言って覚醒剤一袋を渡す。その一瞬の表情が謎めいて、観終えたのち余韻が残る。

 個人的には、底の浅い女しか出てこないのが不満と言えば不満だが、それも諸星の単純な女性観を描いているのだから仕方がない。ものの分かったいい女を登場させたら、物語の底に仕込まれた、警察組織と暴力組織の長い癒着関係を突く刃がやわになる。まずはその刃の切れ味を体感すべき映画なのだろう。
                               (内海陽子)

日本で一番悪い奴ら
監督:白石和彌 
脚本:池上純哉 
音楽:安川午朗
原作:稲葉圭昭「恥さらし 北海道警 悪徳刑事の告白」(講談社文庫)
出演:綾野剛
   YOUNG DAIS 植野行雄(デニス)・矢吹春奈 瀧内公美
   田中隆三 みのすけ 中村倫也 勝矢 斎藤 歩
   青木崇高 木下隆行(TKO) 音尾琢真 ピエール瀧 ・ 中村獅童
配給:東映・日活   
2016年/日本映画/135分/ドラマ・犯罪・コメディ
2016年6月24日より公開中
公式サイト http://www.nichiwaru.com/