『ANORA アノーラ』映画レビュー 自由に光るインディーズ魂

『ANORA アノーラ』は、ストリップ・ダンサーのアニー(アノーラ マイキー・マディソン)が、ロシアの御曹司イヴァン(マーク・エイデルシュテイン)と出会うシンデレラストーリーとしてスタート。ありがちな題材の『ANORA アノーラ』が、カンヌ映画祭で最高賞のパルムドールを撮り、アカデミー賞でも最多5部門受賞。その理由はわかりやすい。

それは、『ANORA アノーラ』が持つ描写の自由度。映画はしょせん作り物。普通の映画の描写はこのぐらいでOKというラインがある。監督のこだわりや予算・期間などによって変わるけれど、『ANORA アノーラ』は、その線が深い。細やかさと意気込みが通常レベルのはるか上だ。即興演技やゲリラ撮影なども使用した現場感が極上の画を作っている。

冒頭のストリップクラブは熱気が高く、まるでそこにいるかのように場のエネルギーが降りかかってくる。アニーの仕事に向かっていく真剣さは、女優マイキー・マディソンのアニー役への挑む心そのままなのだろう。

アニーはイヴァンと出会い、湯水のようにお金を使いながら性愛にまみれる。その時間の濃さとはかなさには、華やかさとスピード感がある。

邪魔者の一団が登場するとトーンが変化する。アニーとイヴァンも最初はアドレナリンとドーパミンの残り香が爆発する。描写のレベルはゆっくりと深まり、違う映画の違う空間に迷い込んだようだ。浮かれた祭日から日常への帰還。その後テンポはコメディ風味と変わり、落としどころに驚きが待つ。

これほど自由自在な映画は滅多にないし、インディーズ映画だからこそ可能だったのではないかとも思う。またオリジナル脚本の強味もある。「タンジェリン」「フロリダ・プロジェクト 真夏の魔法」「レッド・ロケット」などで高い評価を受けてきたショーン・ベイカー監督作品。

個人的には、ユーリー・ボリソフの登場が嬉しかった。彼はフィンランドのユホ・クオスマネン監督がメガホンをとったカンヌ国際映画祭のグランプリ受賞作「コンパートメント No.6」(21)でリョーハ役を印象深く演じていた。『ANORA アノーラ』のイゴール役でも、映画の空気感に絶大な価値を与えてくれている。今回のアカデミー賞助演男優賞にノミネートされている。

(オライカート昌子)

ANORA アノーラ
2024年製作/139分/R18+/アメリカ
原題:Anora
配給:ビターズ・エンド
2025年2月28日より公開中
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