『こいびとのみつけかた』映画レビュー 愛らしく心温まる近所の散歩

『こいびとのみつけかた』を見て、映画について新たな考えが浮かんだ。映画というのは、旅に出て、帰ってくることなのだろうか。

映画の最初と最後は、違う場所にいる。場所が同じ場合があっても、精神的には、一つの旅を終えている。落差の大きな旅もあれば、心の成長が大きいものもある。ささやかなものもある。

『こいびとのみつけかた』は、大きな旅でもないし、心が飛躍するわけでもない。ちょっとした近所の散歩だ。でも、その散歩は素敵だ。監督は、『まともじゃないのは君も一緒』の前田弘二。脚本は、高田亮。

植木屋の青年トワ(倉悠貴)は、コンビニ店員の女性が気になっていた。彼女とは、コンビニで買い物をするときの会話しか、したことがない。だけど、同じ植木屋の先輩や、馴染みの床屋には、彼女の話ばかりする。それは、ほとんどが想像の産物。たとえば、朝起きた時に言う「おはよう」の口調。彼女の好みはケーキより餃子。

どうして本当に話しかけないのか? と聞かれ、ついに話しかけることになるのだが、彼女はいなかったため、店長と仲良くなることに。

次にトワが考えたのは、植木屋の特徴を生かした”落ち葉作戦”。これが功を奏し、ついに彼女、園子(芋生悠)と会話することができるようになる。

トワは、ポケットの中に気になった雑誌の切り抜きがたくさん入っていて、会話するのも、主にその切り抜きの内容だ。世界情勢からレアアースまで。普通の女子なら、ちょっと敬遠しそうだけれど、園子は違った。喜んで聞いてくれる。彼女も廃屋に住み、オブジェ造りをする少し変わった女子だった。しかも、元有名ティーンモデルアイドル。

はぐれ者感のある二人。二人の仲はどうなるのか、変わった二人だから、普通の恋愛映画にはならない。いや、恋愛映画と言えるのかどうかもわからない。そういう意味では、『こいびとのみつけかた』というタイトルのイメージと、映画そのものには距離がある。

もしかしたら、”こいびと”を見つけたいのは、映画を送り出す側で、恋して欲しい相手は、観客なのかもしれない。”こいびと”は映画の方で、それを見つけたいのは、わたしたちの深層心理? ”こいびと”は自分自身で、自分とどう折り合いをつけるのかを表現しているのか。そんな風に、このタイトルと映画は、いろいろ考えさせられる。

間違いないのは、この”近所の散歩”が、とても愛らしく、心を温めてくれる作品であること。そして、ちょっぴり勇気も与えてくれる。わたしたちは、誰でも少しは、はぐれ者だ、一人ひとりが違うのだから。

(オライカート昌子)

こいびとのみつけかた
©JOKER FILMS INC.
10月27日(金)より新宿シネマカリテほか全国ロードショー
配給: ジョーカーフィルムズ
監督:前田弘二 脚本:高田亮  音楽:モリコネン
倉悠貴悠 芋生 成田凌 宇野祥平 川瀬陽太 奥野瑛太 高田里穂 松井愛莉
2023年/日本/99分/5.1ch/スタンダード