ライク・サムワン・イン・ラブの画像
©mk2/eurospace
イランのアッバス・キアロスタミ監督が日本人キャストを起用、日本で撮影した新作。キャストは奥野匡、加瀬亮、でんでん、高梨臨。老人、少女、青年(少女の恋人)の3人で綴られる、一日にも満たない物語である。

驚きと興奮に満ちた映画。映画の冒頭は、どこかのバー。少女は客らしいが、何となく様子が変だ。ちょっと派手目な女友達と「ここにいることを彼氏には言えない、嘘がばれる
かもしれない」などと話している。やがて彼女は、店内で中年の男性と話をした後、タクシーでどこかへ向かう。自分を一日中待っていた祖母の姿を車窓から確かめながら。

ライク・サムワン・イン・ラブの画像
©mk2/eurospace
少女は一体何の仕事をしているのか。どこへ行くのか。何故祖母を無視したのか。行き着いた家に住む老人とはどんな関係なのか。それらの謎は全て、殆どアドリブのような会話劇から推測するしかない。しかし、ずっと見ていると先に生じた疑問が順に解決していく。

少女の恋人と名乗る青年の登場で、一見穏やかに見えた情景が一転。荒々しさを孕んだドラマへと変貌する。サスペンスに近い緊張感と恐怖にみるみるうちに引き込まれ、唐突なラストで幕を閉じる。少女のついたいくつかの嘘、亡き妻の面影を少女に見る老人、彼と少女の不思議な絆・・・。余計な説明はなく、観客に想像させる余裕を与え、否応なしに興味を持たせる演出の見事なこと。こういうものこそ監督の手腕が問われる。シンプルでいて力強い映画だ。                  
(池辺麻子)

ライク・サムワン・イン・ラブ
9月15日(土) ユーロスペースほか全国順次公開
2012年/日本・フランス共同製作/109分/配給:ユーロスペース