『ホテルローヤル』映画レビュー

ホテル・ローヤルは桜木紫乃原作の直木賞受賞作の映画化作品。映画ではなかなか珍しいラブホテルを舞台にしている。

大学入学に失敗してしまった雅代(波瑠)は、実家のラブホテルを継ぐことになった。ホテルでの赤裸々な人間の姿を、若い雅代がどのように受け止めるのか。

武正晴監督は、不倫や壊れた家庭など、一見厳しく見える現実も、透き通った優しい目線で描き、癒しに近い感慨を抱かせてくれる。

ホテルからは北海道の絶景、釧路湿原を眺めることができる。それが孤独やしがらみや欲望を抱いたホテルとのコントラストとなっている。

まさしく、コントラストがこの映画の特徴だ。最初のシーンでは、ホテル・ローヤルはすでに廃墟となっている。その荒んだ室内に、在りし日のホテルローヤルの様子が、フラッシュバックで浮き上がる。かなりグッとくるシーンだ。

きらびやかにデコレーションされた室内で、従業員たちは、鼻歌交じりに掃除にいそしんでいる。そこには、色鮮やかな造形と、温かなぬくもりがある。ホテルの存在は、彼らにとって、愛すべき存在なのだ。

そのホテルが、なぜ廃墟となってしまったのか。

原作がエピソードごとの連作小説なため、ホテルが荒んだ理由も、一つのエピソードとして描かれている。

それとは別に、大きなストーリーの流れもある。全てのエピソードをつなぐ一本の柱が、ホテルの誕生と終焉のコントラストだ。

コントラストは様々な要素となって映画を彩る。不倫。不倫と無関係な結婚。破滅につながる不幸と、不幸に負けることのない意思。

映画のラスト近くに掲示された一枚の写真の明るさが心に残る。それはまるで、ホテルローヤルが愛すべき存在だった証拠のようでもある。

オライカート昌子

ホテルローヤル
11月13日(金)より
TOHOシネマズ 日比谷ほか全国ロードショー
©桜木紫乃/集英社 ©2020映画「ホテルローヤル」製作委員会 
2020年製作/104分/PG12/日本
監督:武正晴(『全裸監督』、『百円の恋』、『嘘八百』)
キャスト:波瑠、松山ケンイチ、
     安田顕、余貴美子、夏川結衣ほか
配給:ファントムフィルム