そもそも、韓国が歴史の陰に隠された実話にスポットを当てて、

超一級の社会派ドラマをこしらえる姿勢に脱帽する。

超一級社会派ドラマとは、エンターテインメント映画でもある。

客を呼べなければ、作った当てなどまったく無いからね。

1980年、多数の死傷者を出した光州事件を描いたソン・ガンホ主演

『タクシー運転手』(2017年)では、韓国で1200万人を動員した。

同じく、韓国軍事政権下で起きた拷問死事件を、当時の新聞記者たちが暴いた

『1987、ある闘いの真実』(2017年)も大ヒットを記録した。

どちらも自国の恥部を隠さずに描いた映画。

この流れが、『工作 黒金星と呼ばれた男』という映画を生んだ。

最近、試写室でこれほどの熱気を感じた映画、あったかなぁ。

おそらく、今年初! と言っていいほど興奮した映画でもあった。

見終わって、極度の緊張から放たれた途端、

ニヤニヤと気が触れたような馬鹿づらになっていたであろう記憶がある。

時は1992年。

あの北朝鮮に商人として潜り込んだ、韓国人スパイの物語。

極秘命令のもと、北朝鮮の核開発はどこまで進んでいるのか、

もしや、完成しているのか、を秘密裏に探るのが任務。

まず、北に入るまでに、アル中になったり、親友から絶縁されたり、

裏社会に身を隠して自分自身の過去を消し去る描写に圧倒されるだろう。

多くの前任者は消息を絶ったり、消されていく中で気が狂いそうになる。

四六時中、飄飄と商人を装いながら神経衰弱ギリギリの心理戦が続く。

誰かに監視されている。盗聴器のランプが点滅する。突然電話が鳴り響く。

と、諦めかけたある日突然、金正日接見の話がやってくる。。。

これぞ、社会派エンターテインメントの醍醐味!

声高にしたい点は、もうひとつある。

金正日、接見までの数時間のシナリオだろう。

騙され、催眠液を注射されて自白を強要される恐怖。

目覚めた後に、正体を自白してしまったのか思い悩む恐怖。

極め付けは、金正日接見前に頭の中に流れ出す聞き慣れたクラシック。

そうだ、これはキューブリック監督『シャイニング』のオープニング曲、

ベルリオーズの「幻想交響曲」だっ! おどろおどろしいなぁ、いつ聞いても。

反転、この幻想曲を合図に、ユーモラスなシーンが続く。

ひと通りの儀礼があって、かわいいワンちゃんの後を追うようにして

「姿」を現す金正日は、その後のウイスキーいっき飲みシーンと共に

忘れがたい場面として記憶に残るはずだ。

万事休すの中にある一服。

実話としながら、A級のエンターテインメント映画の所以がここにある。

137分の上映後、「スクリーンで見るべき映画」と誰もがそう思うだろう。

非日常の空間で、多くの人たちと同時体感する「隠されていたコトがら」。

映画『工作 黒金星と呼ばれた男』には、そのパワーが100パーセントある。

(武茂孝志)

『工作 黒金星(ブラック・ヴィーナス)と呼ばれた男』

出演:ファン・ジョンミン 『哭声/コクソン』『アシュラ』、 イ・ソンミン『目撃者』「ミセンー未生ー」、チョ・ジヌン『お嬢さん』、チュ・ジフン『神と共に』2部作 netflix「キングダム」『アシュラ』

監督:ユン・ジョンビン(『群盗』、『悪いやつら』)

原題:공작/2018年/韓国/カラー/137分

提供:ツイン・Hulu


宣伝プロデュース:ブレイントラスト

ストーリー


1992年、北朝鮮の核開発をめぐって朝鮮半島の緊張状態がたかまるなか、軍人だったパク・ソギョン(ファン・ジョンミン)は北の核開発の実態を探るため、コードネーム黒金星(ブラック・ヴィーナス)という工作員として北朝鮮に潜入する命令を受ける。事業家に扮したパクは3年にもおよぶ慎重な工作活動の末、北朝鮮の対外交渉を一手に握るリ所長(イ・ソンミン)の信頼を得ることに成功し、北朝鮮の最高国家権力である金正日と会うチャンスをものにする。しかし1997年、韓国の大統領選挙をめぐる祖国と北朝鮮の裏取引によって、自分が命を賭けた工作活動が無になることを知り、パクは激しく苦悩する。

2018年度


第27回釜日映画賞:最優秀作品賞・美術賞・脚本賞・主演男優賞・助演男優賞


第55回大鐘賞映画祭:美術賞・主演男優賞


第2回ザ・ソウル・アワーズ:映画部門大賞


第2回韓中国際映画祭:監督賞・作品賞


第38回韓国映画評論家協会賞:監督賞・主演男優賞・助演男優賞


第39回青龍映画賞:監督賞・美術賞


第18回ディレクターズ・カット・アワーズ今年の特別言及・今年の男性演技賞


第5回韓国映画製作家協会賞:照明賞・撮影賞・美術賞


第10回今年の映画賞:作品賞・主演男優賞・助演男優賞