ナイブズアウト

映画は、意味深なファースト・シーンで幕を開ける。

だだっ広い敷地に建つ大豪邸から、2匹の犬が逃げてくる。

その表情は必死で、脇目も振らず一目散だ。

その構図は、ドル箱超大作『スター・ウォーズ』の呪縛から逃げる

ライアン・ジョンソン監督のようだ。

がんじがらめの製作だったろう『スター・ウォーズ/最後のジェダイ』(17)では、

気苦労しっぱなしだったろうからね。

じゃあ、もう1匹は?

そりゃあ、ダニエル・クレイグ君に決まってる。

新作『007/ノー・タイム・トゥ・ダイ』の撮影を終えて、

もういい加減ジェームズ・ボンドのイメージは脱ぎ捨てたいはずだ。

ライアン・ジョンソンは、『ナイブズ・アウト 名探偵と刃の館の秘密』で

オリジナル脚本を手がけ、メガホンも握る。

この超一級の娯楽作を撮り終えて、「ヒントと謎がたくさん詰め込まれた、

本当に面白い現代映画にしたかった」と笑顔でコメントしている。

ダニエル・クレイグもまったく新しい探偵像を作り上げた。

ナイブズアウトの画像2

これまた楽しそうに演じる彼の姿を久々に見た。

こんな感じは、『ドラゴン・タトゥーの女』(11)以来かな。

ライアン監督だって、巧みな脚本が大絶賛された7年前の監督作

『LOOPER/ルーパー』以来の喜びだろう。

このふたりが、『ナイブズ・アウト 名探偵と刃の館の秘密』を

傑作娯楽映画に昇華させたと言っても過言ではない。

さてここらで、「100パーセント予想不可能」と言われる物語の

骨格をお話ししよう。

ニューヨーク郊外。

世界的ミステリー作家ハーラン・スロンビーの

85歳の誕生日パーティーが彼の豪邸で開かれた。

その翌朝、ハーランが遺体となって発見される。

依頼を受けた名探偵ブノワ・ブランは、事件の調査を進めていく。

莫大な資産を抱えるハーランの子どもたちとその家族、家政婦、

専属看護師と、屋敷にいた全員が事件の第一容疑者となったことから、

裕福な家族の裏側に隠れたさまざまな人間関係があぶりだされていく。

ナイブズアウトの画像3

面白さの肝は、ライアン監督が作り出した「設定」だろう。

ニューヨーク郊外とされるが、アメリカ南部を思わせる豪邸の佇まい。

南部特有と思われがちな家政婦もいる。

豪勢な屋根裏部屋や謎の調度品の数々も時代設定を迷わせる。

現代にはミスマッチな葉巻に、風変わりなナイフのコレクション。

何より不気味なのは、同居するハーランの母親の存在だ。

ハーランが85歳だから、軽々と100歳は超えているはずだが、

その年齢は誰も知らない。

さらに観客の感覚を狂わすのは、

カントリー・ミュージックがお似合いのこの映画に、

カットバックながらロキシー・ミュージックの名曲

「夜に抱かれて(MORE THAN THIS)」が流れる瞬間だ。

このイギリス産の前衛的耽美派ロックで酔わせ、

犯人探しを目くらましするライアン監督のセンスが光る。

当て書きに違いない役者陣もピカイチだ。

前述の通り、名探偵ブノワ・ブランにダニエル・クレイグ。

大富豪のミステリー作家ハーランに、『サウンド・オブ・ミュージック』

(1965)のクリストファー・プラマーがいぶし銀を放つ。

一族の長女リンダには、騙し合い映画の傑作『ワンダとダイヤと

優しい奴ら』(1988)のジェイミー・リー・カーティスが陣取る。

その夫リチャードに、80年代の大ヒットテレビシリーズ

『マイアミ・バイス』のドン・ジョンソンがカッコよく登場。

リンダとリチャードの息子役には、マーベル映画でおなじみの

クリス・エヴァンス。そう、我らが『キャプテン・アメリカ』ね。

ハーランの次男ウォルト役に、17年のアカデミー賞を賑わせた

『シェイプ・オブ・ウォーター』の悪役、マイケル・シャノン。

あのカルト映画『テイク・シェルター』の怪演を再披露してくれる。

ハーランの亡き長男の妻として豪邸に住み続けるジョニ役を

トニ・コレットが熱演。『ヘレディタリー/継承』(18)の

強烈な演技はまだ多くのファンにトラウマとして残っているはず。

この他に、ハーランに献身的な看護師のマルタ、

死体の第一発見者となる家政婦のフラン、

衝撃の遺書を読み上げるお抱え弁護士のアラン、

孫たち含め一族を徹底的に問い詰めていく黒人警部補エリオットと

一歩下がって捜査を監視する白人巡査のワグナー、

そして年齢不詳の母親グレート・ナナ・ワネッタが組んず解れつとする。

なるほど、「ハイテンション・ノンストップ・ミステリー」と

評される所以がここにある。

一瞬たりとも目を離せない、よそ見をしたらその瞬間、

置いてきぼりとなる緊張感に満ちた傑作謎解き映画なのだ!

「密室殺人」「全員容疑者」「曲者(くせもの)探偵」という、

ミステリーの王道として、アガサ・クリスティーを持ち出す評が多いが、

いやいや、リチャード・レビンソンとウィリアム・リンク風でもある、

と私は思う。

そう、1970年代の『刑事コロンボ』だ。

コロンボのパイロット版を見ている人は、膝をポンと叩くはずだ。

思いの外、ユーモラスなシーンが多いしね。

やがて真相が明らかになって終演を迎える頃、

またもやライアン監督の独特なセンスに魅了されることとなる。

それは、エンド・クレジットに流れ出す

ローリング・ストーンズの「スウィート・ヴァージニア」にある。

ワインはうめぇよ、ありがとね。

こいつは甘くて、そしてやっぱりほろ苦い。

足元には広大な砂漠が広がっている。

それでさぁ、、、俺の靴の中にはアレが隠されているのさ。

サビのコーラスはゴスペルを思わせ、カントリー風で、

ラグタイム奏法に近いニュアンスも感じられる奇妙な曲だ。

このストーンズの曲に合わせて、

登場人物の似顔絵が、ワインのラベル絵のように現れては消えていく。

この中に犯人はいるのか、それとも。

もちろん、これ以上は明かせないが、これだけははっきりと言える。

あー、金持ちに生まれてこなくてホント良かったよ!

あはは。これはやせ我慢だな。

とにかくラストシーンも秀逸だ。

(武茂孝志)

『ナイブズ・アウト/名探偵と刃の館の秘密』

1月31日(金)、TOHOシネマズ 日比谷ほか全国公開

監督・脚本:ライアン・ジョンソン

(『スター・ウォーズ/最後のジェダイ』『LOOPER/ルーパー』)

出演:ダニエル・クレイグ(007シリーズ )、

クリス・エヴァンス(『アベンジャーズ/エンドゲーム』)、

アナ・デ・アルマス(『ブレードランナー2049』)、

ジェイミー・リー・カーティス(『ハロウィン』)、

トニ・コレット(『ヘレディタリー/継承』)、

ドン・ジョンソン(『ジャンゴ 繋がれざる者』)、

マイケル・シャノン(『シェイプ・オブ・ウォーター』)、

キース・スタンフィールド(『ゲット・アウト』)、

キャサリン・ラングフォード(NETFLIX「13の理由」)、

ジェイデン・マーテル(『IT/イット”それ”が見えたら終わり』)、

クリストファー・プラマー(『ゲティ家の身代金』)

2019年/アメリカ/英語/131分/アメリカンビスタ/カラー/5.1ch/

原題:Knives Out/日本語字幕:髙内朝子 

公式サイト:longride.jp/knivesout-movie 

配給:ロングライド

Photo Credit: Claire Folger

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