『モナ・リザ アンド ザ ブラッドムーン』映画レビュー 鬱な気分を洗い流す爽快展開ムービー

『モナ・リザ アンド ザ ブラッドムーン』は、エキセントリックでいて、温かく、カラフルでエモーショナル、格別な後味がある作品だ。次世代クエンティン・タランティーノと称されるアナ・リリー・アミールポアー監督の長編第三作。

主人公のモナ・リザ(チョン・ジョンソ)は、12年間精神病棟に隔離され、ある満月の夜に人を操る特殊能力に覚醒した。そのあらすじだけを聞けば、ハードな映画を連想するだろう。彼女が病院から逃れるまでの最初の方は、確かにそうだ。多少は血も流れる。だけど、その後は、鬱な気分を洗い流すような、気分が上げる展開が待っている。

映画の味を決めるきっかけになるのは、最初のキスだ。それが、彼女のその後を決していく。決して大げさではなく、筋に関係するかどうかもわからないような密やかなもの。

次のきっかけは、11歳の少年、チャーリー(エヴァン・ウィッテ)とのダンス。チャーリーは、モナ・リザが出会うダンサーのボニー・ベル(ケイト・ハドソン)の息子。モナ・リザとチャーリーは、鬱な気分を吹き飛ばすメタルダンスで、初めて心が通わせる。

ボニー・ベルは、「今までは最悪なことばかり起きてきた」と開き直ったシングルマザー。モナ・リザの特殊能力を運を拓くチャンスとばかりに悪用しようとする。それが露見したところから始まる警察とのチェイスは、スリリングだ。

音楽、色使い、そして悪意と善意が交互に出現していく映画世界は、ニューオーリンズならではのマジカルな背景によって、魅力を増幅していく。

何かが起こりそう、何が起こってもおかしくないのが、ニューオーリンズ。別の町の別の状況ではあり得ない唯一の舞台として、『モナ・リザ アンド ザ ブラッドムーン』で描かれる細やかな表現が成立している。

このモナ・リザは、微笑まないのかと思いきや、彼女は微笑む。そしてラストスパートは、まるで自分が精神病棟から逃れたような爽快感が襲ってくる。

モナ・リザとチャーリーはもちろんだが、彼らを取り巻く大人たちの引力も相当なものだ。ボニー・ベル役のケイト・ハドソンは、『ライフ・ウィズ・ミュージック』に続いて、等身大の自分勝手な女性を演じている。その悪びれない思い切りがむしろ清々しい。そして自称DJのファズを演じるエド・スクレインの見かけと違う存在感。モナ・リザを追う警察官は、クレイグ・ロビンソン 。彼は余裕の演技で、映画をギュッと引き締め、見る楽しさを存分に味合わせてくれる。

ところで、主人公がアジア系ということに、不思議な感じを抱かなかっただろうか。アジア系の理由が最後にちょこっとわかる仕掛けがある。さすがアメリカ南部を舞台にした映画で、監督はイラン系。決して重たい理由ではないけれど。

(オライカート昌子)

モナ・リザ アンド ザ ブラッドムーン
11月17日(金)ヒューマントラストシネマ渋谷、新宿シネマカリテほかにて公開
-配給:キノフィルムズ
© Institution of Production, LLC

監督・脚本:アナ・リリ・アミリプール
出演:ケイト・ハドソン、チョン・ジョンソ、クレイグ・ロビンソン、エド・スクライン、エヴァン・ウィッテン
2022年/アメリカ/英語/106分/カラー/ビスタ/5.1ch/原題:Mona Lisa and the Blood Moon/字幕翻訳:高山舞子/G
提供:木下グループ  配給:キノフィルムズ
公式サイト:https://monalisa-movie.jp