映画ミッドナイトスワンを楽しむためのポイント

ミッドナイトスワンのみどころ その1 内田英治監督のオリジナル脚本にも注目

内田英治監督は、『下衆の愛』(16)やネットフリックス「全裸監督」(19)などを手掛けていますが、今回の『ミッドナイトスワン』は、内田英治監督のオリジナル脚本です。

コミックや本が原作の映画作品が多くなっており、現在の映画業界でのオリジナル脚本は本当に少なくなっています。全公開映画の20%を切るぐらいの数しかありません。

映画化や公開がめどがたっていなくても、コツコツと書いたオリジナリティあふれる作品だからこそ、他に代えがたい価値があるとも言えます。

ミッドナイトスワンのみどころ その2 草彅剛を始め、豪華俳優陣の演技

俳優としての草彅剛さんは、作品ごとに違う姿を見せてくれるだけでなく、人間としてのストレートで純粋な姿を見せてくれる稀有な実力を持っています。特に、『ミッドナイトスワン』では、唯一無二の凪沙の存在が胸に迫ってきます。

今回の役は、内田英治監督が5年かけて書いたオリジナル脚本ということで、草彅剛さんに当てはめて書いたわけではないことを考えると、さらに味わい深く感じます。

凪沙に預けられる少女一果を演じる服部樹咲さんは、当初の母に虐待された傷を持つ少女から、バレリーナとして羽ばたく自信に満ちた姿までを、大きな幅を持って演じていて、見ごたえがあります。

一果の友人役のりんを演じる上野鈴華は、難しい役どころを絶妙に演じてくれています。何不自由なく育ってきたりんが、足を痛めたことから、夢を断念するかしないかの瀬戸際に立たされる。その姿は、今年公開の話題作、映画『WAVES/ウェイブス』の主人公、タイラーを思わせます。

一果が陽なら、りんは陰。二人の運命が交錯しつつ、変転していくところが映画『ミッドナイトスワン』の一つの軸となっています。

ミッドナイトスワンのみどころ その3 いくつものテーマの溶け合い方が見事

ミッドナイトスワンで描かれているテーマは、トランスジェンダー、バレエ、虐待、挫折、夢を叶える道筋、親子関係、人間愛など。

いくつものテーマが響き合い、溶けあっていく姿に共感させられます。それぞれの登場人物が持つ背景ひとつひとつに人間ドラマが包み込まれている様子はさらに見事です。

テーマが際立つのが、一果とりんの対比、凪沙と、一果の実の母、早織(氷川あさみ)との”母”の対比の二つにスポットライトを当てることで、ストーリーの純度が際立つところにも注目です。

ミッドナイトスワン 映画レビュー

映画を見るということは、人に出会い、その人の人生に出会い、その人を取り巻く世界に出会うこと。

そういう意味で、映画『ミッドナイトスワン』で、草彅剛が演じる凪沙との出会いはとても大きい。忘れられない人になった。

凪沙は、ナイトパブで働くトランスジェンダー。ひっそりと暮らす彼/彼女のところに、いとこの娘、中学生の一果が預けられる。母から虐待を受けていたためだ。

凪沙と一果との暮らしは、不協和音を奏でるが、一果がバレエクラスに興味を持ったことで、少しずつ変化していく。

『ミッドナイトスワン』の好感ポイントは数多い。画面作り、俳優の力、そして人を愛すること、誰かのために生きることが、いかに人を変化させていくかというストーリーの運び方。

東京の夜景を空撮しているシーンは、今まで見たことがないくらい美しい。猥雑な新宿の片隅の描写ですら、澄み切った空気感と明るさがある。気取らないけど格調高い。

でも何といってもこの映画のすばらしさを一つだけ挙げようとすれば、やはり凪沙だ。トランスジェンダーだということ、演じているのが、草彅剛。それだけでも、こちらは少し身構えてしまう。

ところが、凪沙には、そういう意識を全て消してしまうような確かな存在感がある。核にある気高さというものが見え隠れする。私の中にもあるであろう、その部分と呼応して、歓喜に近いものを呼ぶ。

映画の中では、ストーリーの展開につれ、人々の関係性や成長が変化を見せてくれるが、『ミッドナイトスワン』に関しては、ほとんどの登場人物が、変化していく。

上り坂もあれば、転落していくものもあるけれど、その調和具合も見事だ。

どういう生き方をしてもいい。どんな生き方も幸いであり完璧。そう思わせてくれる自由さは、浮上感と至福を私の毎日に付け加えてくれる。

オライカート昌子

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ミッドナイトスワン
©2020 Midnight Swan Film Partners
2020年製作/124分/G/日本
配給:キノフィルムズ