「グスコーブドリの伝記」の画像
© 2012「グスコーブドリの伝記」製作委員会/ますむら・ひろし
27年前の名作『銀河鉄道の夜』に続く杉井ギサブロー監督のアニメ作品。『銀鉄』同様、キャラクター原案をますむら・ひろしが手がけ、登場人物は全て猫で表現されている。冷害に家族を奪われたグスコーブドリが、再び冷害に襲われた故郷を必死に救おうとする。

結論から言えば、美しく、非常に幻想的な映画。私は『銀鉄』を観ていない。公開当時から今まで、キャラクターが猫であることに抵抗を感じて観たいと思わなかった…というのが理由。今回も、正直その気持ちが変わることはなかった。キャラクターが猫というのは、監督やますむら氏なりの拘りだが、擬人化されている以上、人間のキャラクターでも同じなのではと思えてならないのだ。

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© 2012「グスコーブドリの伝記」製作委員会/ますむら・ひろし
ただ、誤解のないように言えば、映画というものは個人(監督)が表現するイマジネーションの世界=芸術だ。たとえ好き嫌いは分かれても、客観的に観れば非常に完成度が高い傑作だと思う。前半~中盤の抽象的な展開は、この世ではないような独特の世界が広がり、夢の中を彷徨うかのよう。比較的具体的なストーリーが浮かび上がる後半も、スチームパンク的な街の描写が素晴らしい。

個人的な話では、子供の頃、宮沢賢治の作品を好きだった時代があった。でも、何故か詳細を覚えていない作品が多い。多分、「児童文学」という一般的な位置づけに騙され(?)、その実、奥が深くて難解だったことから、幼すぎて付いていけなかったのだと思う。賢治の作品は、神秘的すぎてトラウマを作るほど怖いところがある。本作の原作も、両親に捨てられ(理由はさておき)、妹が誘拐され、そして衝撃のラスト…と、ショッキングな設定が並ぶ。賢治の自伝的要素が強い作品だが、彼の死生観や絶望の美学のようなものが投影されているのだ。

賢治に対して確固たる世界観を持つ人ほど戸惑いそうだが、あまりそのことに執着せずに観た方が、この作品の良さが分かるはず。 (池辺 麻子)

グスコーブドリの伝記
2012年7月7日(土)、丸の内ピカデリーほか全国ロードショー
オフィシャルサイト http://wwws.warnerbros.co.jp/budori/