(c)2012 Twentieth Century Fox
(c)2012 Twentieth Century Fox

ブッカー賞を受賞したヤン・マーテルの世界的ベストセラーをアン・リー監督が映画化。動物園経営の一家が航行中に嵐に遭い、一人生き残った少年・パイが救命ボートに紛れ込んだとトラと共に漂流するサバイバル・アドベンチャー。

CGを多用した3D映像が息を呑むほどに美しい。殆どの動物がCGで出来ているが、本物と見紛う程リアルで、BBCの動物ドキュメンタリーを見るような感覚に陥る場面さえある。その映像の壮大さは、気のせいかだんだんとエスカレートしていき、次第に非現実的になっていく。トラと一緒に227日も漂流したサバイバルの生々しさは殆どない。勿論、威嚇するトラを恐れたパイが救命胴衣とオールで作った”浮き場”に避難したり、縄張りを作る努力をしたり、トラ用の餌(魚)を捕獲したりなど、殺されないための様々な努力は描かれる。

(c)2012 Twentieth Century Fox
(c)2012 Twentieth Century Fox
しかし、この映画で大事なのは、パイの肉体的な闘いではなく、思想や哲学に支えられて生き抜いたことなのだ。神に助けを求め、怒りをぶつけ、感謝するパイ。後半になって彼が行き着く無人島が象徴的だ。無数のミーアキャットが群れるこの島は「人食い」で、昼は天国のようだが夜は生物の体を溶かす魔の島に変異する。この島の一連の描写は、これまでで最もリアリティがない。人工的だし、まるで夢を見ているように出来すぎている。つまり、パイ自身を表してもいるのだ。

終盤でパイが涙ながらに語る「嘘」も、本当に嘘なのか断定することはできない。原作は、映画よりもっと宗教的だという。彼の傍に存在したものが「目に見えない」ものだったとしても、確かに彼はその存在に支えられて生還した。表面だけ見れば絵本的ではあるが、だからこそ本作の本質が少なくとも私には伝わってきた。パイ役の少年は、オーディションで抜擢された無名の新人・スライ・シャルマ。演技初と思えないほど素晴らしい。
(池辺 麻子)

ライフ・オブ・パイ/トラと漂流した227日
2013年1月25日 TOHO シネマズ日劇他全国ロードショー
オフィシャルサイト http://www.foxmovies.jp/lifeofpi/