若いころ、わたしは映画仲間に「あんたはジジイ好きね」と言われていた。『ダンディー少佐』(1964)のリチャード・ハリスや『砂漠の流れ者』(1970)のジェイソン・ロバーズにうっとりしていたころの話だ。もう十分に年を取ったいまもけっこうジジイ好きである。とはいうものの、ジジイなら誰でもいいわけはなく、この『アンコール!!』のテレンス・スタンプくらいのジジイでなければならないのは当然だ。出世作『コレクター』(1965)の青年の彼よりも、わたしは現在のテレンス・スタンプがいい。
今回彼が演じるのは、変質者でも悪人でも復讐者でもない。長年連れ添った妻(ヴァネッサ・レッドグレイヴ)が病み、彼女に去られることを怖れているただの頑固老人である。それでもテレンス・スタンプだから、いくら無骨な老人を装っても、ちらりと粋な影がのぞく。顔がクローズアップされれば、しわに囲まれていっそう魅力的になった青い瞳がきらめく。こういう男に愛される女は本当に幸せ者である。
明るい気性のマリオン(レッドグレイヴ)は、病んだいまも高齢者の合唱団に参加して笑顔を振りまいている。夫のアーサー(スタンプ)は妻の身を案じ、合唱団をリードする若い音楽教師エリザベス(ジェマ・アータートン)に冷淡な顔をみせるが、エリザベスは意に介さない。それどころか、マリオンのソロ歌唱「トルゥー・カラーズ」の効果もあり、この合唱団は国際合唱コンクールの予選を通過し、本選に臨むことになる。しかしマリオンは本選出場を待たずに死去し、息子との関係を修復できないまま、アーサーは悲嘆にくれる。
この彼を引っ張り上げるのがエリザベスで、中盤からは彼女がぐんぐん力を発揮する。アーサーを叱咤激励するいっぽう、「わたしは恋愛を続けるのが絶望的にヘタなの」と愚痴って泣くところなど、じつに愛らしい。自分の人生がうまくいかないから心を閉じるのではなく、自分が役に立つ何かを求めて外に向かって活動する彼女の意思に胸うたれる。もっとがんばれ、と思う。
日本語タイトルとヴィジュアルで想像がつくだろうが、亡きマリオンに代わり、彼女のためにソロで歌うアーサーはまことに美しい。スーパースターだ。その姿を見て歓喜する家族やエリザベスや団員、すべての登場人物の幸せをわたしは共有する。すてきな映画をありがとう。 (内海陽子)
アンコール!!
6月28日(金)TOHOシネマズ シャンテ 7月5日(金)全国ロードショー
公式サイト http://encore.asmik-ace.co.jp/