プラダを着た悪魔、危し。緊迫のドキュメンタリー
『メットガラ ドレスをまとった美術館』にどっぷりとハマる。
ヘタな映画よりよっぽど面白い。そのハラハラドキドキ感は、『キングコング』なんかより10倍も上手だ。
プラダを着た悪魔とは、ご存知「ヴォーグ」の敏腕編集長アナ・ウィンターのこと。映画のモデルとはいえ、あのカリスマ性、覚えていらっしゃるでしょ。
胃が痛くなるほど怖かったですねぇ。
そのアナ・ウィンターが主催する「メットガラ」は、ファッション界のアカデミー賞とも言われる超セレブなイベント。
そもそもファッション業界の資金集めが目的で、チケットの値段は一枚25,000ドル。日本円にすると、ざっと275万円かぁ。シビれるねぇ。ダイソンのコードレスクリーナーが45台も買えちゃうよぉ〜。
そんなイベントに失敗は許されない! イベントのテーマは、『中国』! 企画展示「鏡の中の中国」としてファッション、美術、映画の歴史を一堂に展示するというもの。
会場は、泣く子も黙るニューヨークのメトロポリタン美術館!
現場責任者としてアナが指名したのは、同館の若き天才キュレーター、アンドリュー・ボルトン、49歳。さらに相談役として、上海出身の世界的映画監督ウォン・カーウァイを招聘!
百戦錬磨の布陣で意気揚々と中国へ乗り込むが、中国側は首をタテに振らない。問題山積。アナはタジタジ。アンドリューは涙目で、頼みの綱のウォンは黒いサングラスをしたままで助け舟を出してくれない。(ここ、笑えます)
はたして、中国はアメリカに協力してくれるのか。
年に一度のイベント「メットガラ」は例年通り開催できるのか。。。
中国パワーはアメリカ映画界も飲み込むか
ドキュメンタリー『メットガラ ドレスをまとった美術館』の見所の一つは、強気な中国との度重なる交渉シーンだろう。
流行語にもなった爆買いなど、中国のパワーには恐れ入ったけど、映画界を見てもなるほど、膝を叩く事例がありました。
●傑作『ゼロ・グラビティ』(13)では中国の宇宙船が大活躍したし、
●これまた傑作『オデッセイ』(16)ではチャイナ・マネーにアメリカが救われ、
● アメリカ夏興行の稼ぎ頭『トランスフォーマー』シリーズには中国の繁華街と企業名があふれ、
● トム・クルーズやマット・デイモンなど、最近のアメリカ大作映画は中国印ばかり。
イギリスの大手新聞『ガーディアン』も、「今年、中国の映画興行収入はアメリカを抜き世界トップになる」と報じているほど中国のパワーは本物なのだ。
こうなると、ウディ・アレンの映画も北京が舞台になったりする日が近いのか。
中国映画がアカデミー賞を独占する日も近いのかも。
『メットガラ ドレスをまとった美術館』はそんなことすら予感させる。
覗き見的に味わう、セレブの窮地
鬼気迫る見所はまだまだ続く。
クセのある登場人物たち、アナのひと言でやり直しとなる現場の構成、遅れに遅れる作業工程、逃げ出したくなる関係者の表情、さらにVIPゲストのリアーナから提示される高額な出演料! さぁ、これらにどう対処していくのか。。。
トドメは600人を超えるセレブの席順だろう。
ジョージ・クルーニー、レディー・ガガ、ゴルチエ、ジャスティン・ビーバーなどと書かれた細かな付箋が、あっちに行ったりこっちに行ったりする光景は、その人個々の人望や影響力、そして損得がうかがい知れてオモシロイ。
「破局を噂される二人が並ぶのは問題あり」とか、「この二人を同じテーブルにすると会場が映える」だとか、ブスだのバカだの問題児だの、ひそひそ話が聞こえてくるようで生々しい。
こんな緊張感ある現場で何ヶ月も必死にカメラを回し続けたドキュメンタリー監督、アンドリュー・ロッシに拍手。私の想像だけど、現場責任者のアンドリューがアナに呼びつけられる度に同名の監督も震え上がったはず。
こんなことを想像しながら見れば、面白さも倍増だ。
さぁ、中国をテーマにした2015年の「メットガラ」は成功したのかどうか。
今後の日中関係の行く末も考えさせられるエンターテイメントあふれる傑作ドキュメンタリーを見逃さないでほしい。
とくに、仕事で締め切りに追われる若者たちに見て欲しい映画でもある。
きっと、心臓が強くなります。
(武茂孝志)
メットガラ ドレスをまとった美術館
「登場するセレブたち」
ジョン・ガリアーノ カール・ラガーフェルド ジャン=ポール・ゴルチエ バズ・ラーマン ウォン・カーウァイ リアーナ ジョージ・クルーニー レディー・ガガ アン・ハサウェイ マドンナ ジャスティン・ビーバー サラ・ジェシカ・パーカー ビヨンセ ケイト・ハドソン ジェシカ・チャスティン クロエ・セヴィニー ジュリアン・ムーア シェール ブラッドリー・クーパー ラリー・デヴィット ジェニファー・ローレンス ジェニファー・ロペス カニエ・ウエスト オーウェン・ウィルソン ビル・カニンガム (他)
4月15日(土)より、Bunkamuraル・シネマ、ヒューマントラストシネマ有楽町、新宿シネマカリテほか全国ロードショー
原題:The First Monday in May
上映時間:91分
配給:アルバトロス・フィルム