『最後のミッション』六車俊治監督インタビュー

日本のアクション映画の最前線の話題作『最後のミッション』の六車俊治監督にお話をお伺いしました。戦争のこと、アクション映画のこと、日本映画の現状についてなど、熱いお話をお聞きすることができました。

映画『最後のミッション』とは


伝説の元スタントマン・髙橋昌志演じる引退した元自衛官が、戦場で大きな傷を負った部下のために組織の命令に背き、最後のミッションに挑む。かつて、戦場で起きた悲劇の真相を背負い、立ちはだかる巨悪に挑むクライムアクション・エンターテインメント。

監督・脚本に「狼 ラストスタントマン」で今回主演の土門を演じる髙橋昌志とタッグを組んだ六車俊治監督。「キングダム 大将軍の帰還」などのホースコーディネーターを務めた辻井啓伺によるホースアクションや、「地面師」なども手がけたスタントコーディネーターの柿添清も参加したカーアクションなど、最強チームが参加した、CG無し、吹き替えなし スタントなしのリアルなアクションに注目。

『最後のミッション』六車監督インタビュー

軍という組織の恐ろしさ


━━六車監督は、戦争や軍隊にお詳しいということですが

六車俊治監督:僕の父方の祖父が大日本帝国陸軍の軍人で、実家の熊本に行ったら、飯食った後、焼酎を飲みながら、ずっと戦争の話をするんです。性格が穏やかで怒ったところは一度も見たことがありません。お坊さんのように淡々と話すんです。そんなキャラクターもあって僕の中で軍人のイメージはじいちゃん。穏やかなお坊さん。最終階級は少佐で、六車隊は人が死なないと、ばあちゃんはよく自慢してましたが、じいちゃんは自慢することは一切なく淡々としていました。

大学時代、ゼミの矢野久先生(慶應義塾大学名誉教授)の専門がナチスドイツでした。ヒトラーは何故あんなことをやったのか、どういうことが行われたのか、それは本当なのかなど、先生の私見も聞くことができました。軍隊という組織の問題について、たとえばSSとSAの対立が凄かったなど、貴重な話を伺いました。

軍という組織の恐ろしさは、厳格な命令系統が存在し、その目的は人を殺すこと。そんな中で時に英雄が生まれる。最近、ベネズエラでは、アメリカのデルタフォースが、味方が一人も殺されずに大統領を捕縛した。この強さは異常な感じがします。でもできるんですよね、エリートの軍人が揃えば。

今回の主役の土門は、まさにそれです。髙橋昌志さんはスーパーアクションエリート、日本を代表するスタントマンでした。彼に軍人のトップエリートを演じてもらいたい。そこに映画のエンタメ性が生まれると思いました。

日本の陸上自衛隊にも特殊作戦部隊があります。今回の映画のモデルになっているのは「特殊作戦群」です。空挺部隊出身の隊員が多く所属しているようです。隊員は単独でも行動できる。髙橋昌志さん演じる主人公・土門は、隊長の設定です。そして、そのエリート軍人も人間である。物語のテーマはそこにあります。

英雄と悪魔


六車俊治監督:味方がこの人は英雄だ、レジェンドだ、と思うのは、その人が最前線にいると、相手が10人20人いても、多分その人一人で倒せる能力があると思わせるからでしょう。味方からしたら、この人と一緒に行動したいですよね。土門がまさにそれです。土門の部隊にいれば自分が生き残る可能性が高いからです。

だけど敵からしたら最悪です。土門と会いたくないわけですよね。味方が30人いても敵に土門がいれば、みんなやられるんだという恐怖感がある。つまり、味方にいれば英雄でも、敵から見たら悪魔という側面も持つわけです。それは、結局やってることが人殺しだからですよね。土門はその「英雄」と「悪魔」という両面性を持っている。でも一人の人です。今回は土門が組織の命令に悩み、葛藤して、その壁を乗り越えていくというのが主軸になります。

『最後のミッション』殺し屋Z対土門の静かで熱い闘い


━━今回の『最後のミッション』では、殺し屋Z対土門に見ごたえがありました。土門さんは高倉健に見えました。Zを演じている倉田さんには驚きました。こんな俳優さんがいたんだと思って。誰かに似ていると思ったんですが。

六車俊治監督:外見の参考にしたのは、マッツ・ミケルセンです。

━━そうそう、マッツ・ミケルセンにすごく似ていますよね。マッツ・ミケルセン対高倉健ですね。

六車俊治監督:Zを演じる倉田さんは、大阪の人で普段は大阪弁ですが、見た目の雰囲気はどこか西洋の血が入っている感じがします。ぜひこの役を演じてもらいたいと思っていました。黙っていると色気があるし野性味がある。身体能力が高い。Zは設定では、傭兵でアフリカあたりで働いていて相当腕がよかった。しかし、命令が絶対の組織になじめなかった。対立した上官を殺害するという大きな問題を起こし、その噂が広まると誰にも使われなくなり、フリーランスの殺し屋になった。絶対死なない信念のようなものをを持っています。Zは特殊部隊隊長として有名な土門のことは知っています。だから、土門に会ったとき、「オッと、土門だ。こいつ、世界でも有名な日本で一番強い男じゃないか」とその喜びを表現してもらいました。

静かで危険な世界と華やかで欲望にまみれた世界


━━日本映画らしいと思ったのは、途中に出会った夫婦へのZの対応でした。

六車俊治監督:リアリティ的にも、ホラーサスペンス展開的にも、劇中とは真逆の対応が当然だと最初は思っていたのですが、ローンウルフたるZのポリシーから、結果的にあのようにしました。

━━あのシーンとの対比となるのが、共闘するはずの別の殺し屋二人へのZの対応でした。シーンのカッコ良さもあって。Zの怖さがでて、エッ?と思いました。

六車俊治監督:あそこは、相手が車から降りてくるのをじっと観察し、10秒ぐらいで決断していると思います。

━━映画は、中盤から世界が広がって二段階楽しめる作りになっていますね。土門対Zは、スピンオフでも見てみたいです。

ところで、土門もZもびっくりするぐらいセリフが少ないですね。クリシュナのCEOはよくしゃべる。静かで危険な世界と華やかで欲望にまみれた世界の対比を感じました。

六車俊治監督:ありがとうございます。そこは意識しました。セリフの難しさについて、いつも考えています。人間は本当のことを言わないことが多いですよね。口ではいくらでも嘘をつける。でも、行動は嘘をつかないと思ってます。特に映画は無声映画から始まっていることから考えると、映像表現の目指す理想形は、セリフではなく、人物の行動にあると思います。

日本アクション映画の現状


━━今は日本映画が盛り上がっていますが、日本のアクション映画に関してはまだ弱さを感じます。日本アクション映画もどんどん世に出て欲しいのですが、監督はどう思われますか。

六車俊治監督:特に21世紀に入り、日本はアクション俳優を育ててこなかったと感じています。理由のひとつは、アクション俳優は危険なことをしなくてはならない、つまり、リスクがあるからでしょう。間違ったら大きな怪我をすることもある。そのリスクの評価が昨今高くなり、そういう作品を手掛ける製作者が少なくなったと感じています。

ジャッキー・チェンなどは俳優だけでなくプロデューサも兼ねているので、自分が責任を取るから、危険なこと、やりたいことをやっていたように思います。おそらく、チャップリンもキートンもそうじゃないですか。「俺が全部責任取るから、俺ここから落ちていい?」みたいな。みんながエッと思うことをできた。最近でいえば、トム・クルーズもそうじゃないでしょうか。俺が全責任取るからやらせてと。

世界的に見ても、20世紀の時代のように映画会社がドーンと構えて、危険で凄いアクションやるぞという時代ではなくなっているかもしれない。そういう意味では、現在は製作者側が、昔よりも腹をくくって、アクション作品を作っていかないといけない時代なのかもしれません。確かにリスクはあります。今回も危ないシーンはありました。

いいスタッフが危険な撮影を成し遂げた

━━『最後のミッション』をよく作り上げることができましたね

六車俊治監督:『最後のミッション』は、いいスタッフが集まってくれたんです。あの馬と車のシーンでも、撮影現場にいたスタッフはみんな日本のトップレベルの方ばかりでした。そういう方たちがいてスムーズに撮影できたんです。

最も危険なカット、走る馬から走る車に飛ぶ土門。結構強烈ですが、ミライという白馬がとても利口だったんです。ミライが土門に「ハイ、飛んで!」と言ってるように感じました。理想的な馬に出会えたと。若い俳優さんにも、今回のような撮影環境を作らない限り育たないと感じています。やってみたいという若い人は必ずいるはずなので。

━━おもしろいならスタントを使ってもいいと思うんですが。

六車俊治監督:最近は若いスタントマンも減ってきてます。CGでやれちゃうからでしょう。安全のテクニックは細分化され、向上している分、危険なことに挑戦する機会が減っているという傾向を感じています。

━━CGだと軽くなりますね。見る側の贅沢かもしれませんが

六車俊治監督:CGだと映像表現に重力がなくなる気がします。例えば、とある映画でキアヌ・リーヴスが馬に乗っているシーンは、ワイヤーを使っていました。落馬した時のことを考えてみてください。落馬は本当に怖いですよね。安全は何よりも大切。そこが難しいところですね。

六車監督ありがとうございました。今後とも熱い日本製作のアクション映画の世界が広がっていくことを期待したいと思います。

(取材/文 オライカート昌子

最後のミッション

配給:ミッドシップ
2026年1月16日より劇場公開
(C)2025「最後のミッション」製作委員会
スタッフ
監督:六車俊治
キャスト:高橋昌志、丸りおな、南翔太、かんた、倉田昭二、遊佐亮介、日高七海、目黒祐樹
2025年製作/90分/G/日本