映画『佐藤さんと佐藤さん』は二人の佐藤さんにまつわる結婚協奏曲だ。結婚は予測不可能なアドベンチャー。それをくっきりと印象的に描きだしている。
どこまでも明るいサチ(岸井ゆきの)と真面目で好青年のタモツ(宮沢氷魚)。大学のサークル「珈琲研究会」で出会った正反対な性格のふたりはなぜか気が合い、一緒に暮らし始める。塾講師として働きながら、弁護士を目指しているタモツは司法試験に失敗。合格するまでは結婚は考えていなかった。それなのに、予想外の出来事がやってくる。
先行き不透明さとアイロニーめいた出来事を丁寧に明るく豊かに描き、普通の生活で起こり得る多少の残酷さもまぶしている。残酷さは不意打ちでやってくるので、防ぎようがない。はたしてそれは悪いことなのか、いいことなのか。
語り口は隅々まで神経が行き届き、二人の旬の実力派俳優が奏でる協奏曲は音がいい。観客は、自分の結婚を顧みだろうし、結婚をしていなくて結婚の現実を想像するとき、おりにふれて『佐藤さんと佐藤さん』を思い出すような気がする。それはいい部分も悪い部分もまとめて彼らが私たちの中にいるからかもしれない。日々のいらだち、よろこび、意味もなく比べること、すねる気持ちもある。最善を尽くそうとする試みなど。結婚のすべてを描き切っているからだ。
映画の中の時間は、22歳、27歳、30歳、31歳、32歳、33歳と経過していく。それにつれ、二人の表情、口調、関係も変化して行く。この結婚という普段着アドベンチャーは、挑むべきだろうか否か。冒頭の二重の自転車置き場のシーンは、結婚の真実を示唆しているような気がした。
佐藤さんと佐藤さん
11月28日(金) 全国ロードショー
(C)2025『佐藤さんと佐藤さん』製作委員会
配給:ポニーキャニオン
岸井ゆきの 宮沢氷魚
藤原さくら 三浦獠太 田村健太郎 前原 滉 山本浩司 八木亜希子 中島 歩
佐々木希 田島令子 ベンガル
監督:天野千尋
脚本:熊谷まどか 天野千尋 音楽:Ryu Matsuyama Koki Moriyama(odol)





