文豪ゲーテの若き日の恋と聞いて、あなたはどんなイメージを持つだろう。へたをすると古めかしい恋の世界が描かれると思われるかもしれない。だがそれは大きなカン違い。原題に“エクスクラメーションマーク”が付いていることからもわかるように、この映画は“現代っ子”ゲーテの恋を軽快にのびやかにやんちゃに描くのである。宣伝ウーマン・K嬢は「恋するゲーテ」という日本語タイトルを提案したが、採用されなかったという。後先かまわず暴走する、若い血の高ぶりをとてもよく言い表しているのに。
法律家になるべく勉強中なのに、作家への夢捨てがたいゲーテ(アレクサンダー・フェーリング)は、生き生きした若い女性シャルロッテ(ミリアム・シュタイン)を知り、心を奪われる。頭もセンスもよいシャルロッテはゲーテの文才を知って励まし、彼を有頂天にさせる。しかし彼女の父は家族の生活のため、娘を裕福な男に嫁がせようとする。恋人たちの情熱の日々はそう長く続きそうにない。
皮肉なことに、シャルロッテの未来の夫候補はゲーテの上司ケストナー(モーリッツ・ブライブトロイ)だ。そうとは知らず、ゲーテは無骨な彼に口説きのテクニックを伝授し、彼は懸命な演技でシャルロッテの心を動かす。形勢はどうもあやしくなってきた。シャルロッテはどちらの男を選ぶだろう。
もしゲーテと一緒になったなら、そのうち、シャルロッテは彼の行動力と情熱に振り回され、くたびれ果ててしまうだろう。きっとゲーテのあふれる才能は常に新しい事象、新しい女を求めるだろう。シャルロッテはそこまできちんと見極めたうえで、ケストナーを選ぶのである。よく見れば、彼の瞳には男の悲しみと誠意がこもっている。
どんな現代っ子も、その時代の掟に縛られている。その掟に歯向かう生きかたもあろうが、むしろその掟を受け入れ、より賢明な道を探ることこそ、真に勇気ある生きかたなのではないだろうか。そしてそれは結果としてゲーテの才能をも輝かせることになる。シャルロッテをそういう意思ある女性として描くことで、この映画は甘い悲恋ものの域を大きく超えた。敬愛されるべき知性と品性に満ちた現代的恋愛映画である。
(内海陽子)
ゲーテの恋 ~君に捧ぐ「若きウェルテルの悩み」~
10月29日(土) TOHOシネマズ シャンテ他にて全国順次ロードショー
オフィシャルサイト http://goethe.gaga.ne.jp/
監督・脚本:フィリップ・シュテルツェル『アイガー北壁』
出演:アレクサンダー・フェーリング『イングロリアス・バスターズ』/ミリアム・シュタイン/モーリッツ・ブライブトロイ『ミュンヘン』
配給:ギャガ 後援:ドイツ連邦共和国大使館
GOETHE!/2010/ドイツ/カラ―/シネスコ/ドルビーSR、ドルビーデジタル/105分/