『あちらにいる鬼』解説・あらすじ 映画レビュー

あちらにいる鬼とは 作品解説・あらすじ

あちらにいる鬼とは キャスト・監督

あちらにいる鬼とは

『あちらにいる鬼』の原作小説は、井上荒野の同名小説。三人の登場人物のモデルは、井上荒野の父である作家の井上光晴と母、そして瀬戸内寂聴。

あちらにいる鬼監督・キャスト
瀬戸内寂聴をモデルにした長内みはるを寺島しのぶ、井上光晴をモデルにした白木篤郎を豊川悦司。白木の妻・笙子を広末涼子が演じている。

廣木隆一監督
監督は、廣木隆一。映画監督デビュー後、ピンク映画を手がけた後、米サンダンス・インスティテュートに留学。その後。03年「ヴァイブレータ」で、賞を取るなど評価を高め、09年の『余命1ヶ月の花嫁』は興収30億円を超える大ヒットを記録。『やわらかい生活』(05)、『M』(06)、『軽蔑』など。

第35回東京国際映画祭で、『あちらにいる鬼』と同時にガラセレクションとして上映された12月公開の『月の満ち欠け』も手掛けている。

瀬戸内寂聴とは
『夏の終り』『花に問え』『場所』などの著作を残し、2021年に他界。数々の賞を受賞した女流作家。大正・昭和・平成・令和と4つの時代を生きた。

井上光晴とは

『地の群れ』や『虚構のクレーン』などの多数の著作で戦後を代表する作家。戦争、原爆、炭鉱、差別などをテーマに活躍。

あちらにいる鬼 あらすじ

1960年代、長内みはるは作家としての人気を確立していた。ある日、講演旅行で、戦後派を代表する作家・白木篤郎と知り合う。何度か会ううちに、恋仲になる。白木は妻、笙子がおり、笙子は、過去の白木の愛人の存在も知っていたが、白木との夫婦仲は、平穏なものだった。しかも二人の間にはある秘密も存在した。

みはるは、男女関係にだらしない白木との関係を清算しようと、一度は別れたものの再び仲は元に戻ってしまう。彼女が最終的にとった行動は出家だった。

あちらにいる鬼 映画レビュー


『あちらにいる鬼』を見た後の残り香は独特だ。時間がたてばたつほど味わいが身に染みる。この夫婦と夫の愛人の物語の描き方はごくシンプルでストレート。そのストーリーが、ほぼ事実だろうというところが隠し味になっている。

モデルは、瀬戸内寂聴(作中では長内みはる)、井上光晴(作中では長内みはる)という、誰もが名前を聞いたことがある戦後を代表する作家、そして井上光晴の妻。書いたのは、井上光晴の娘の井上荒野だ。妙な面白みを加味することなく直線的に描いたところは、勇気や探求心のなせる技だ

三人の関係の真実と、長内みはるは、なぜ出家という手段をとったのかを追求するストーリーが描かれる。原作と同じ『あちらにいる鬼』というタイトルの魅力は底知れない。興味を抱かせずにいられない。

さらに、この映画の不思議なところは、泥沼や修羅場をイメージさせる三角関係でもなお、清潔感あふれる味わいだ。

鬼の正体とは何なのか? 鬼はどこに潜んでいるのか?

三角関係なら、鬼とは、邪魔をする相手を意味しそうなもの。だが、そうではない。相手の存在を無にしたいという欲望。愛するものをわがものにしたいという思い。それこそが鬼なのだ。そこから離れようという、自分の気持ちをしっかり持ち続けようとする意志が映画を力強いものにしている。

(オライカート昌子)

あちらにいる鬼
2022年11月11日(金)全国ロードショ
配給:ハピネットファントム・スタジオ-©2022「あちらにいる鬼」製作委員会
寺島しのぶ 豊川悦司/ 広末涼子 高良健吾
監督:廣木隆一
脚本:荒井晴彦
原作:井上荒野「あちらにいる鬼」(朝日文庫)音楽:鈴木正人2022/日本/139 分/5.1ch/シネマスコープサイズ/カラー/デジタルR15+happinet-phantom.com/achira-oni @achira_oni