怪物は、夜来る。
真っ先にスピルバーグ監督の『BFG : ビッグ・フレンドリー・ジャイアント』を思い出した。
怪物が夜にやってきて、子供をまどわしさらっていく。
そういえば、『BFG』の怪物が棲む秘境には、朽ち果てた観覧車、浮遊する光玉、怪物たちがスケート代わりに履くトラックが散乱し、寝床にはETらしき人形まで転がっていたっけ。
順繰りに言うと、『1941』、『未知との遭遇』、『激突』、『E.T.』。。。
スピルバーグ監督は、新作に自身の映画の小道具をちりばめて、懐かしのファンタジーをこしらえていたんだね。
『BFG』の原作は、『チャーリーとチョコレート工場』でも知られる作家ロアルド・ダール。
この『怪物はささやく』も『BFG』同様、児童文学の映画化。
こちらは男女ふたりの作家が産み出した童話だけれど、やっぱり中身はダーク・ファンタジーだ。
ただ、『BFG』の怪物とは違い、この怪物は決まって深夜12時7分キッカリにやってくる。だから、怖い。
二階の窓から教会の墓地が見えるが、怪物はそこから毎晩やってくる。だから、ますます怖い。
恐怖におののく少年コナーに向かって怪物はささやく。
「毎晩オレはやってきて、オマエに3つの物語を話してやる。
オレが3つ話し終えたら、今度はオマエが真実の物語をオレに話せ」
3つのハナシの題名は、
「黒の王妃と若き王子」、「薬師の秘薬」、そして「透明人間の男」。
劇中劇として語られるその話がこれまた怖い。
● 魔の手を逃れ、農家の娘と駆け落ちした王子の正体とは。。。
● クスリの調合師を廃業に追いやってしまった牧師の運命は。。。
● 人々から無視され続けた男がとった行動とは。。。
聞く者を不安に落し入れ、人間の本質をあぶり出す3つの忠告。
引きずり込まれるようになめらかな水彩で描かれる3つの予言。
資料によると、あのグザヴィエ・ドランがこう評している。
「この映画は、勇気と想像力の叙情詩だ。
水彩画で描かれた怪物から絵の具が滲み出て、
まるで感情を持つかのように美しく流れ出す場面で、
僕の胸は張り裂けそうになった」
なるほどこの表現は的を得ている。
ね、最後に少年が話す真実の話とは何か、ワクワクするでしょ。
映画『怪物はささやく』はスペインのアカデミー賞「ゴヤ賞」で2016年最多の9部門を受賞、同年スペインの年間映画興収ナンバーワンを記録している。
少年コナーを演じるのは、1000人のオーディションから選ばれた2002年生まれのルイス・マクドゥーガル君。スコットランド人。
難しい病を抱えた母親役には今をときめくフェリシティ・ジョーンズ。
『ローグ・ワン スター・ウォーズ・ストーリー』でならず者を熱演したフェリシティが180度転身して泣かせます。
あれこれと厄介な祖母役には泣く子も黙る姐御シガニー・ウィーバー。
特筆は怪物の声を演じる名優リーアム・ニーソンだろう。
『96時間』シリーズなどのアクション親父だけではないのだ。
1952年、北アイルランド生まれ、元ボクサー、193㎝の巨体がささやく重低音にきっと魅了されるはずだ。
孤独な少年と怪物の「魂の駆け引き」を描く感涙のダーク・ファンタジー。
映画のメッセージとして、母子がカウチでひとつ毛布に包まれて16ミリ版の『キングコング』(1933年)を見るシーンがある。
このときのキングコングの表情を見逃してはいけない。
もちろん、このシーンを見るふたりの表情も同様だ。
異形、疎外、特異、孤独といった「ネガティブ」が、ある瞬間、人生最高の宝物に転化することがある。
映画『怪物はささやく』にはそれが隠れている。
怪物はささやく
6月9日(金)より、TOHOシネマズ みゆき座ほかにて全国公開
原題:A Monster Calls / アメリカ・スペイン / 109分
監督:J・A・バヨナ
原案:シヴォーン・ダウド
原作:パトリック・ネス
キャスト:ルイス・マクドゥーガル / フェリシティ・ジョーンズ /
シガニー・ウィーバー / リーアム・ニーソン(声のみ)
配給:ギャガ
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