『死刑台のメロディ』映画レビュー 今も新鮮に訴えるエネルギーと望み

『死刑台のメロディ』は、堂々たる大作映画だ。格調高く、誠実。そして、力強い。今回、エンニオ・モリコーネ特選上映ということで、4Kリマスター版が劇場公開されることになった。この作品を劇場で見ることができるのは、およそ50年ぶりだ。

『死刑台のメロディ』で描かれているのは、実際に起きた事件、サッコ=バンゼッティ事件だが、この出来事は、映画が製作された1971年の50年前、1920年代に起きている。つまり、100年前の事件を、50年前に製作しているということ。

平等、尊重を求めるラジカル(日本語字幕では、アナーキストと呼ばれている)の、魚の行商人のバルトロメオ・ヴァンゼッティと、靴の職人ニコラ・サッコが逮捕された。

靴工場への強盗事件の犯人ではないかと疑いかがかる。証拠は不確かで、裁判の成立が不可能に思えるほどだった。その様子は、『死刑台のメロディ』の前半で描かれる。

後半は、裁判が結審した後の彼らの様子と、さらに世界中で巻き起こる、サッコとバンゼッティの、自由のための抗議活動だ。当時の映像も使われている。スクリーンから押し寄せてくる物理的圧倒感の勢いはすさまじい。自由と平等と尊重への望みは、1920年代でも、世界中のムーブメントだった。

『死刑台のメロディ』の舞台となった1920年代は、第一次世界大戦と第二次世界大戦の合間の、狂乱の時代。禁酒法が制定された時代でもある。映画では、『華麗なるギャツビー』、『ファンタスティック・ビースト』シリーズ、そしてインドの独立運動が舞台となった『RRR』もこの時代。イギリスでは、『ダウントン・アビー』や、『英国王のスピーチ』が、この時代だ。自動車が一般的になり、庶民の生活にも変化が生まれてくる。

そして、『死刑台のメロディ』が製作された1970年代は、ベトナム戦争反対の抗議活動が行われ、フラワーチルドレンたちが平和と愛を訴えていた。エンニオ・モリコーネの『死刑台のメロディ』の主題歌は、「花はどこへ行った」などで有名な、社会派歌手のジョーン・バエズが担当している。『死刑台のメロディ』は、今の時代にも衰えることがなく、新鮮な感動と、エネルギーを与えてくれる。ところで、人々の力というものは、どれほど大きいものなのだろうか。

(オライカート昌子)

死刑台のメロディ
4/19(金)より新宿武蔵野館ほかで公開
監督・脚本:ジュリアーノ・モンタルド
撮影:シルヴァーノ・イッポリティ
音楽:エンニオ・モリコーネ
歌:ジョーン・バエズ
出演:ジャン・マリア・ヴォロンテ、リカルド・クッチョーラ、ミロ・オーシャ、
シリル・キューザック、ロザンナ・フラテッロ
1971年/イタリア/ドラマ/原題:SACCO E VANZETTI/125分/カラー/
ビスタサイズ/DCP/英語モノラル
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