『エミリア・ペレス』映画レビュー 自分を変え周囲を変え世界を変える

人生を変えたい、まるごと取り替えたい。人生をリセットしたい人は日本でも60%もいるという。映画『エミリア・ペレス』は「人生をまるごと取り替えた」人物の物語だ。エンターテイメントとしても極上。ミュージカルシーンも挟まれ、アクションシーンもある。

メインの舞台は現代のメキシコ。その世界は暗い。麻薬王、暴力、多数の行方不明者がいる世界。ミュージカルシーンは華やかというよりは、暗闇の人生の中でひっそりと灯される希望や夢を、歌と踊りで表現している。深淵から浮かび上がる切実な思いだ。

映画『エミリア・ペレス』は、人生そのものの雑多な要素を、精巧な寄せ木細工のように組み合わせている。描いたのは、『君と歩く世界』などのフランス人監督ジャック・オーディアール。

最初は、弁護士リタを演じるゾーイ・サルダナの独壇場だ。リタは、弁護士としての実力を生かすことができない。体制の一員として苦々しく、やっとのことで生きている。彼女も人生を変えたいと願っている。そんなある日、「人生を変えることができるはず」の極秘の依頼がやってくる。

ゾーイ・サルダナは、歩いて良し、歌って良し、キリリとした動きは無駄がなく、演技巧者の技術を圧倒的に魅せる。ゾーイ・サルダナは、リタ役でアカデミー賞助演女優賞を獲得したが、これは主演女優ものだ、と思ったほどだ。

だが、話が進むにつれリタは脇へ退き、エミリア・ペレス(カルラ・ソフィア・ガスコン)が嵐のような勢いで主演者の地位へ進み出る。王侯貴族のようなたくましくも強いパワーで。

そこで気づいたのは、少しづつ脇へ追いやられたリタは、狂言回しの役割だったということ。狂言回しといえば、シャーロック・ホームズのワトソンだ。ホームズの理解者であり、紹介者であり、際立たせる役割だ。リタは抜群の働きをする。エミリア・ペレスは最大限に目立つ存在になる。

エミリア・ペレスは忘れられない登場人物として心に残る。人生を変えようとしてそれに成功した人物であり、リタを変え、それ以外の多くの人々も変えていく。先鋭的で極端で、まるで神話の登場人物のようでもある。

(オライカート昌子)

エミリア・ペレス
3月28日(金)より、新宿ピカデリーほか全国順次公開
監替・脚本:ジャック・オーディアール
出演:ゾーイ・サルダナ、カルラ・ソフィア・ガスコン、セレーナ・ゴメス
原題: EmiliaPerez/ 2024年|フランス|カラー|シネスコ|5.1ch|133分|
字幕翻訳:原田りえ
配給:ギャガ GAGA★
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