『グリーン・ナイト』レビュー

チラシに、

「怪物と戦う者は、みずからも怪物とならぬように心せよ」とある。

ジャンル映画をアートの域まで高めてヒットに導き、

ハリウッドにおける唯一無二の立ち位置を確立した

映画製作・配給会社、その名はA24。

中でも『ウィッチ』(2015年)、『ヘレディタリー/継承』(2018年)、

『ライトハウス』(2019年)といったホラー作品における超常現象は興味深い。

とプレスにある。


そう、A24ファンが待ちに待った『グリーン・ナイト』がついに公開となる。

ひと言でいうならば、自分探しの旅だが、そんな表現は陳腐だった。

人生最後の走馬灯にも似た壮大な末路なのだ。

どこまでも永遠に続く曇天のもと。そこには霧が立ち込み、

時折り焦げ臭い燃えかすのようなものがキラキラと舞う世界。


天国か地獄か。

見る者は一刻も早くこの世界に馴染めなければ迷子になってしまうだろう。

アーサー王が主催のクリスマス宴の最中、重き門がゆっくりと開き、

緑色の騎士(グリーン・ナイト)がやってくる。

半分が人間で、半分が樹木のような不気味な騎士。

その騎士が「クリスマスのゲームをしたい」と申し出る。


場の者たちが尻込む中、男らしさを見せるために王の甥っ子で

放蕩な日々を過ごしていたガウェインが申し出を受ける。

そして、ガウェインは巨大な斧で騎士の首をはね落としてしまう。

しかしその騎士は首なし状態でも倒れない。

転げ落ちた頭部を抱えてこう告げるのだった。

「1年後のクリスマス、お前は私を探し出し、

同じ目に遭わなければならない」

映画『グリーン・ナイト』のプロローグである。


放蕩息子ガウェインに扮するは、

『スラムドッグ$ミリオネア』のデヴ・パテル。

『エクス・マキナ』のアリシア・ヴィキャンデルが

美貌を消した一人二役でガウェインに絡みつき誘惑をする。

2015年のスリラー『ザ・ギフト』で監督デビューも果たした

曲者俳優ジョエル・エドガートンも重要な役どころ。

「この世は理屈に合わない不思議なことばかり」と呟きながら、

「グリーンは自然の色だが、腐食の色でもある」と

謎めいた言葉を残して消えていく。

この意味は何なのか。

見る者もガウェイン同様、グリーン・ナイトを探す旅へと進むのだ。

デヴィッド・ロウリー監督の演出は、出世作『A GHOST STORY/

ア・ゴースト・ストーリー』同様にスローで薄暗く陰湿だ。

見る者の評価はここで大きく分かれるだろう。

いったいどこまで現実で、どこからが幻なのか。

方向感覚も曖昧で、前進しているのか後退りか読めない。

挙句、キツネが話しかけてくる。

キツネを信じるか、呪いの分身として無視をするのか。

ロウリー監督作品の常連、作曲家のダニエル・ハートの調べが宙に誘い、

アンドリュー・ドロス・パレルモのキャメラが映し出されるすべてを

無限の彼方の物語と感じさせてくれる。

やがてガウェインは決着をつけるため、森の奥深くへと入っていくが。

近作でいうならば、傑作『NOPE/ノープ』のような、

そして怪作『LAMB/ラム』に似た不気味さが漂う。

グリーン・ナイトは友好的なのか、それとも地獄の使者なのか。

わたしは、1962年、僅か28分の衝撃作、

ロベール・アンリコ監督の『ふくろうの河』を思い出してしまった。

(武茂孝志)

『グリーン・ナイト』

11月25日(金)TOHOシネマズ シャンテ ほか全国ロードショー

監督・脚本・編集:デヴィッド・ロウリー 

出演:デヴ・パテル、アリシア・ヴィキャンデル、

ジョエル・エドガートン、サリタ・チョウドリー、ショーン・ハリス、

ケイト・ディッキー、バリー・コーガン、ラルフ・アイネソン

2021年/アメリカ・カナダ・アイルランド/英語/130分/カラー/

アメリカンビスタ/5.1ch/原題:The Green Knight /

日本語字幕:松浦美奈/字幕監修:岡本広毅

配給:トランスフォーマー

提供:トランスフォーマー、Filmarks、スカーレット

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