『ドント・ウォーリー・ダーリン』映画レビュー

華やかさと刺激と抑制に満ちた映像体験が、忘れられない。『ドント・ウォーリー・ダーリン』は、相当な問題作だ。スリラーでもあり、愛の物語でもある。最後にググっと立ち上がるのは、人生に何を求めるのか、愛する人に何を捧げるのか。男性と女性とでは、読後感の差も大きいのではないかと思う。夫婦や恋人と見て、その差を確かめて見るのもいいかもしれない。

監督は、美人女優としても成功を収めているオリビア・ワイルド。前作の監督デビュー作『ブックスマート 卒業前夜のパーティーデビュー』は、抜群の面白さで度肝を抜いてくれた。タブーを恐れない強い心を持っているのが、隅々から感じられる。

そんな彼女が、挑んだ以上、『ドント・ウォーリー・ダーリン』が凡作になるわけがない。今回は、自身も重要な役柄を演じている。主人公のアリスの隣人のバーニーだ。

冒頭のパーティシーンでは、シャンパンを頭に乗せて踊る女性同士の闘いが繰り広げられている。勝者はバーニーだ。そういえば、『ドント・ウォーリー・ダーリン』はパーティシーンが多い。パーティ映画のようでもある。まるで『華麗なるギャツビー』を見ているように。

主人公のアリス(フローレンス・ピュー)は、華やかで安泰な生活を満喫している。その場所、ビクトリーに住むのは、特別に選ばれたカップルたちだ。欲しいものは何でも手に入る。服でも、車でも、家でも。美しさに溢れた、愛する人とのスペシャルな生活がずっと続くかのように思われた。

そこに、不穏なものが忍び寄る。かつて仲の良かった友人の変わっていく姿。「ここにいてはいけない」と、電話をかけてくる。中身が空っぽの卵、不思議なダンスの夢。街を走る巡回バスから飛行機の墜落を目撃したところから、アリスは、決して行ってはいけない場所に向かっていく。人助けのためなら何でもする覚悟で。だが、砂漠を超えた山の上にある本部へ向かった彼女は、その後の記憶を失っていた。気づいたら自宅のベッドに横たわっていたのだ。

その後、彼女は変わっていく。ビクトリーへの疑惑が募る。ここはどういう場所なのか、夫の仕事は何なのか。ビクトリーを管理するフランクは、どういう人物なのか。予測のつかない展開は、抑制の効いたスムースなリズムを刻む。

奇妙さが、決して居心地の悪さや薄気味悪さにならないところが、この映画の個性だ。色彩感覚や流麗なカメラワーク、物語の運び方も、コントロールが効いている。その辺りが、オリビア監督の手腕なのだろう。

自身、有名な俳優のためか、配役陣の魅力も相当なものだ。アリスの夫に、人気グループ ワンダイレクションのハリー・スタイルズ。フランク役にクリス・パイン。クリス・パインは主演作も多いが、俺様キャラが持ち味だ。今回は、それを生かし、カリスマ力を最大に発揮している。

(オライカート昌子)

ドント・ウォーリー・ダーリン
11月11 日(金)日本公開
配給: ワーナー・ブラザース映画
© 2022 Warner Bros. Entertainment Inc. All Rights Reserved
監督:オリビア・ワイルド (『ブックスマート 卒業前夜のパーティーデビュー』)
原案:キャリー・バン・ダイク&シェーン・バン・ダイク、ケイティ・シルバーマン ■脚本:ケイティ・シルバーマン
出演:フローレンス・ピュー(『ミッドサマー』、『ストーリー・オブ・マイライフ/わたしの若草物語』、『ブラック・ウィドウ』)
ハリー・スタイルズ(『ダンケルク』)、オリビア・ワイルド、ジェンマ・チャン、キキ・レイン、ニック・クロール、クリス・パイン
原題:Don’t Worry Darling ■US 公開日:9 月 23 日(金)
レイティング:PG12