『クリーン ある殺し屋の献身』映画レビュー アカデミー賞俳優がキレッキレのアクションを見せる

俳優が、一番撮りたい映画を作るのが可能なら、どんな映画ができるだろう。

口出しされず、一流の俳優なら当然知り尽くしている自分を最大限生かすやり方を使って。

好きなストーリー。好きな共演者、好きな監督を起用し、観客にとっても、自分にとっても最高の映画を作り上げることができるのだろうか。

『クリーン ある殺し屋の献身』は、事実はどうであれ、そんな想像を掻き立てる。

ある出来事をきっかけに一歩退いた殺し屋は、今はゴミ回収車を走らせている。廃品や廃屋の修理をし、近所の人が住まないあばら家の壁も塗り直す。人からは”クリーン”と呼ばれている。

夜になると悪夢を見る。過去の行いは決して消えないことを彼は知っている。過去がもたらした傷も消えない。けれど最大限の努力で人生のやり直しに取り組む。その真剣度は涙ぐましいほどだ。

もちろん、周囲は、彼をそのままにしておくわけがない。映画である以上、殺し屋は殺す者。それを知っていても、クリーンを演じるエイドリアン・ブロディは、真摯さを十分に見せてくれる。

クリーンが牙をむき、磨きぬいた能力を見せるまではかなり時間がかかる。もしかしてエンジンはかからないのでは? と思い始めたころに、近所の少女に魔の手が襲い掛かり、ついにクリーンは動き出す。

前半の”世界をきれいに清潔にします”モードからの激変振りは、待たされたかいがあったと思うほどだ。アカデミー賞俳優が、キレキレのアクションシーンを見せてくれる至福の時間が待っている。

そのカッコよさは、デンゼル・ワシントンの『イコライザー』、リーアム・ニーソンの、『96時間』、ホアキン・フェニックスの『ジョーカー』で見せてくれた衝撃と同じだ。演技力と存在感が持ち味の俳優たちが、満を持ししてアクションに挑んだ作品だ。

どちらかというと、演技はうまいけれど、パッとしない地味なイメージだったエイドリアン・ブロディのイメージを大きく飛躍させたように思えた。

彼と、ポール・ソレット監督が前に組んだ映画『キラー・ドッグ』をすぐに見たい気にさせられた。

(オライカート昌子)

クリーン ある殺し屋の献身
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全国ロードショー中
提供:ニューセレクト/配給:アルバトロス・フィルム