『シビル・ウォー アメリカ最後の日』映画レビュー 美的センスと容赦のなさ

死の危険が迫っている。それなのに、その人は微笑んでいる。何を見ているのだろう。車窓にゆっくりと映る光景は、ドリーミィで輝かしく、ゆったりとして平安に満ちている。だが、その正体は、戦火。

『シビル・ウォー アメリカ最後の日』は、スタジオA24作品。スタジオA24は、日本では、『ミッドサマー』や『ボーはおそれている』のアリ・アスター監督作品などでおなじみ。映画好きには、外せない映画会社だ。近年のアカデミー賞の常連で、2023年(第95回)には、『エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス』で最多7部門を受賞している。

スタジオA24作品の個性は、ファッショナブルで、斬新。スパイスが効いて、時に不気味。新感覚の表現で、アメリカの映画界での勢いは、圧倒的だ。でもさすがに、A24が戦闘映画にまで進出するとは思わなかった。

『シビル・ウォー アメリカ最後の日』は分断されたアメリカの内戦を描いた戦闘アクション映画だが、A24スタジオ独特のテイストは健在。美的センスあふれた画面構成、色彩に秀でて、運びも新鮮。味付けもスパイシーだ。

容赦のなさには驚く。それは、感情と知性が封印された人間の極端な姿だ。温かでのどかな自然とのコントラストが目を引く

一般的には、戦争を描いた映画は、兵士が中心となっている。時に被害を受ける立場の庶民が主人公のこともある。『シビル・ウォー アメリカ最後の日』は、ジャーナリストが主人公。独特の切り口だ。

ジャーナリストは、4人。内戦の中、大統領に単独インタビューを行うために、ニューヨークからホワイトハウスまで車で移動していく。戦闘現場は点在している。ロードムービー手法で描くのは、そこで遭遇する戦闘。ストーリーの中心には、新旧二人の女性戦場カメラマン。

ベテランのカメラマン、リー役にキルステン・ダンスト、若手のジェシー役にケイリー・スピーニーが扮している。リーとジェシーの変化と関わり合いが、『シビル・ウォー アメリカ最後の日』を深化させている。人生とは、このようなものかと、鳥肌が去らない。

監督は、A24の前期の代表的作品、『エクス・マキナ』を手掛けた、アレックス・ガーランド。

(オライカート昌子)

シビル・ウォー アメリカ最後の日
10月4日(金)TOHOシネマズ日比谷ほか全国公開
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配給:ハピネットファントム・スタジオ