『アンテベラム』映画レビュー 鍛えることには意味がある 作品情報・あらすじ

映画 アンテベラムとは

映画『アンテベラム』は、富と名声と美貌を謳歌していたヴェロニカと、彼女と対照的な苦痛に満ちた日々を送っているエデンという女性が登場するサスペンス映画。パラドックスに満ちた作品です。

『ゲット・アウト』、『アス』は全米で旋風を巻き起こした映画ですが、『アンテベラム』も同じプロデューサーということで衝撃度に期待がかかります。

最初のシークエンスは南部のプランテーションで起こる出来事を長回しのカメラでじっくりと撮影。冒頭の長回しというと、アレハンドロ・G・イニャリトゥ監督の『レヴェナント:蘇えりし者』を思い起こさせますが、テーマにも『アンテベラム』と近いものを感じさせます。

監督は、今作が初長編作の、ジェラルド・ブッシュとクリストファー・レンツ。主演のヴェロニカとエデン役には、『ムーンライト』、『ドリーム』のジャネール・モネイ。

映画 アンテベラム あらすじ


南部のプランテーション。そこでは黒人たちが圧制の下にあり、自ら進んで言葉を発することすら禁じられるという、苦痛に満ちた世界が広がっていた。そこに住むエデンは、アフリカ系の美しい女性。彼女は、殺人すら簡単に起こるプランテーションからの脱出を試みていた。

一方、エデンと同じような美しさを持つヴェロニカは、ファッショナブルでプロフェッショナルなベストセラー作家。メディアでも注目の的だった。優しい夫と、可愛い娘を持ち、自信を保つために自己を律する訓練も怠らない。ところがある日、滞在先のニューヨークで不審なことが起こり始める。

ヴェロニカに何が起こったのか。エデンと関係があるのか。やがて信じがたい事実が浮かび上がる。

映画 アンテベラム 映画レビュー

黒人差別という、忘れたいけれど忘れてはいけない歴史を持つ南部アメリカには、それを知っていても、どこか惹かれる要素がある。『風と共に去りぬ』で描かれた世界でもあり、南北戦争での南軍側のゲリラ部隊を描いたアン・リー監督の『シビル・ガン-楽園をください』の印象も強い。

魅力的だけれど、悪辣なイメージも同時にある世界。それは、アメリカ南部の歴史だけでない。どこにでも簡単に見つけられる。すべてのものに、陰陽二つの面があるように。

『アンテベラム』には大いなる仕掛けがあるけれど、それを見抜くのは、難しくない。仕掛け以上のものもある。差別の卑劣さ、それを上回る他の存在に対して、同時に自分に対しての尊厳や自己肯定力の力の凄さだ。

エデンは、罠を抜け出せるのか。自分を信じる心を堅持し、持ちこたえることができるのか。何かに頼らず、自分をどれだけ信じられるか、自分が何をどれだけできるのか、自分をしっかりと見極めるひたむきな視線。ヴェロニカには、それがあり、それがラストの雄叫びと解放感と共に強い引力を引き起こす。

彼女は日頃から、精神の統一を試みている、そして、身体を鍛え方いて、そこが秘密兵器になる。積み重ねたものは、暴力に立ち向かう最高の一矢になるのだ。それはあらゆる難問の答えかもしれない。

(オライカート昌子)

アンテベラム
(C)2020 Lions Gate Entertainment Inc. All Rights Reserved.
2020年製作/106分/G/アメリカ
原題:Antebellum
配給:キノフィルムズ