残酷なホラー映画の制作現場は、意外にも笑いが絶えないという話を聞いたことがある。『ゾンビランド』は、冒頭から、はなやかな笑いの絶えない現場を想像させるホラーアクションで、その徹底したサービス精神にうなるばかり。タイトルバックに登場する”ゾンビたち”の嬉々とした演技にそれがはっきり表れており、元ストリッパーのゾンビの腰にむなしく札びらがはさまったままという状態は強烈におかしい。食人鬼と化したゾンビによって人類は絶滅寸前、ゾンビは断固駆除すべき害虫群、というお約束のもと、物語は快走する。

引きこもっていたおかげで生きのびた青年(ジェシー・アイゼンバーグ)とマッチョなゾンビハンター(ウディ・ハレルソン)を、ころりとだます姉(エマ・ストーン)と妹(アビゲイル・ブレスリン)。彼女たちが使うテクニックは、ゾンビにかまれたばかりで、まだ人間の感情を持っているいたいけな存在を装うこと。どんなに危機的状況にあっても、男は存外お人好し、という姉妹のもくろみにまんまとはまる男二人。この物語は背景にゾンビをふんだんに配して描く”ボーイ・ミーツ・ガール”映画の典型である。ゾンビの襲来は人生に繰り返し訪れるさまざまな危機を象徴しているのだろう。

ゾンビ相手に大立ち回りを繰り広げるウディ・ハレルソンが「知恵より、やっぱり運だな」とさりげなく言うように、サバイバルに際して肝腎なのは運をすばやくつかまえる瞬発力である。そのことを闘争の中にさりげなく織り込みつつ、彼らが疑似家族をつくり上げていく様子は古典的で力強い。いまは亡き前田陽一監督の『喜劇 家族同盟』(1983)を思い起こしながら、わたしは彼らの今後に心からのエールを送るのである。

(内海陽子:更新2010年7月)

■2009年アメリカ映画/87分/監督:ルーベン・フライシャー/出演:ウディ・ハレルソン、ジェシー・アイゼンバーグ、アビゲイル・ブレスリン